臨床薬理の進歩 No.43
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SRPK1によるウイルス増殖抑制 続いて、共同研究先であるドイツ国のBSL-4実験施設で、感染性ウイルスを用いた実験を行った。HEK293細胞(ヒト胎児腎細胞)またはHuh-7細胞(ヒト肝癌細胞)にSRPK1を過剰発現させると、EBOVの増殖が抑制された(図5)。一方でSRPK1阻害剤SRPIN340を添加しても、ウイルスの増殖に変化は認めなかった(データ未発表)。このことから、SRPK1は少量でもVP30に対するリン酸化活性を示す可能性、またはSRPK1以外にもVP30をリン酸化するキナーゼが細胞内に存在する可能性が示された。SRPK1-VP30の相互作用を制御する分子機構の解明 SRPK1がVP30をリン酸化する機構を解明するため、キナーゼ認識配列に変異を導入して、VP30リン酸化の状態を検証した。その結果、RxxSモチーフに変異を導入することでSRPK1とVP30の相互作用が減弱し、最も重要な被リン酸化部位である29番セリン(29S)のリン酸化が制御されることがわかった(図6)。続いてリバースジェネティクス技術を用いて、この変異を有する全長組換えウイルスを構築したところ、複製能力が1/100~1/1000ほどまで低下した(図7)。これらの結果からVP30のリン酸化はEBOVの増殖にきわめて重要な役割を持つことが示唆された。図5 SRPK1によるウイルス複製制御二種類のヒト培養細胞において、SRPK1過剰発現によりVP30のリン酸化が亢進し、EBOVの増殖が制御されることがわかった。このことはSRPK1を介する新規抗EBOV薬が有効である可能性を示唆する。グラフはMean±SDを示す(n≧3)。得られた結果はstudent t検定により解析した。プロテインキナーゼSRPK1を介したエボラウイルス転写・複製制御機構の解明ヌクレオカプシドにおけるVP30の局在解析 VP30のNC形成機構における役割を明らかにするために、EBOVのウイルス粒子を弱い界面活性剤で処理し、放出されたNCに対して免疫電子顕微鏡解析を行った。免疫染色の結果、VP30はヘリックス領域を取り囲むように局在していた。VP30に結合した金粒子はNCに全周性に分布しており、その局在に明確な特徴は認めなかった。論文投稿・査読中のため、図を含めた詳細情報については本稿では割愛させて頂く。ヌクレオカプシド形成におけるV30リン酸化の役割 VP30のリン酸化変異体を培養細胞に発現させて、NCLSを内包するVLPを作製した。精製したVLPを界面活性剤で処理し、エンベロープからNCLSを放出させ、VP30に対する免疫電顕解析を行った。VP30に結合した金粒子の相対結合量を比較したところ、リン酸化型(VP306D)で増加した一方で、⾮リン酸化型(VP306A)では減少した。論文投稿・査読中のため、図を含めた詳細情報については本稿では割愛させて頂く。*******81

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