謝 辞(16%)であったのに対し、タダラフィル治療群では1例(2%)と有意に減少しており、相反する結果であった18)。この結果の違いとして、タダラフィルとシルデナフィルは、同じPDE5阻害薬であるが、胎児移行性に関する特性が異なっていることが原因と考えられている19)。シルデナフィルは胎児移行性が高いが、タダラフィルには胎児移行性が低いことが示されており、タダラフィルは胎盤へ作用を呈するが、胎児への直接的な作用が少なく、胎児の副作用が抑えられている可能性がある。シルデナフィルと異なり、これらの基礎的な研究においてタダラフィルの胎児への安全性は証明されており、タダラフィルを用いた本試験を継続することは、理にかなっていると考えている。TADAFLⅠ試験 分娩方法には、経腟分娩と帝王切開術がある。また、帝王切開術には胎位異常など、あらかじめ帝王切開術と定められている「選択帝王切開術」と、経腟分娩の方針としていたが分娩中の母体・胎児状態によって経腟分娩が困難と判断され帝王切開術となる「緊急帝王切開術」がある。緊急帝王切開術の適応は、分娩中の胎児状態悪化を意味する「胎児機能不全」や分娩が順調に進まない「分娩停止」などがある。胎児機能不全に陥りやすい危険因子としては、胎児発育不全や羊水過少症などがあるが、このような危険因子がなくとも、分娩中の繰り返す子宮収縮(胎児へのストレス)により胎児機能不全に陥り、分娩方法を緊急帝王切開術に変更することがしばしばある。胎児機能不全は、健康であると考えられた胎児においても、繰り返す子宮収縮によって、胎児機能不全に陥ることはしばしば存在する。胎児機能不全による緊急帝王切開術は、児を救命、低酸素性虚血性脳症を予防するために実施するが、一方で母体に対しては経腟分娩と比較して出血量の増加など合併症が増加する。また、胎児機能不全の進行が速い事例では、経腟分娩から緊急帝王切開術へ切り替える準備過程において、さらに胎児状態が悪化してしまう危険性がある。 これまで、胎児機能を分娩前に評価するために、胎児心拍数モニタリングによるノンストレステストやコントラクションストレステスト、胎児超音波検査、その他様々な胎盤由来のマーカー(エストリオール20、ヒト胎盤ラクトゲン21)、胎盤増殖因子、可溶性fms様チロシンキナーゼの22,23)などを用いて研究が進められてきたが、胎児機能を「経腟分娩が可能かどうか」、「分娩中に胎児機能不全に陥らないかどうか」という観点で、正確に判断する指標は見出されていない。 2020年、分娩中にPDE5阻害薬の1つであるシルデナフィルを投与し、胎盤機能を改善し帝王切開を回避させる可能性があることが報告された24)。PDE5阻害薬は、主に血管平滑筋細胞におけるcGMPの不活性化を阻害するPDE5阻害薬であり、一酸化窒素の生物学的利用能を高めることが知られている。この作用は、生殖器・骨盤臓器でより顕著で、血管を拡張させる。そのため、胎児および子宮胎盤の血流を増加させ、胎児機能不全を改善させる可能性があると考えられている。本試験では、タダラフィルの分娩中の低酸素性虚血性脳症の予防についての有効性を見出すための試験を実施するための第1歩としての第Ⅰ相試験を終了し、タダラフィルの母体・胎児・新生児への安全性を証明した。今後、有効性、用量設定のための第Ⅱ相試験の実施を計画する予定である。 本試験を実施するにあたり、研究助成を賜りました臨床薬理研究振興財団関係者の皆様に深く感謝申し上げます。また、これまでに研究協力をいただいた施設の皆様に、この場をお借りしまして深謝申し上げます。90
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