臨床薬理の進歩 No.44
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*1 IKEMURA KENJI *2 WANG DANNI *3 YAMANE FUMIHIRO *4 OKUDA MASAHIRO はじめに要   旨 オキサゾリジノン系抗菌薬であるリネゾリドは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの多剤耐性菌に優れた抗菌活性を示し、臓器移行性に優れた抗MRSA薬である。一方で、リネゾリドは好中球減少、血小板減少、貧血といった可逆的かつ時間依存的な骨髄抑制を引き起こすことがあり、特に血小板減少は約40%の頻度で発現し、治療継続の大きな妨げとなっている1)。リネゾリドによる血小板減少のリスク因子として、リネゾリドの長期投与や腎機能低下等が報告されている1,2)。しかしながら、リスク因子を持たない患者においてもリネゾリドによる血小板減少が頻発することから、目的 リネゾリドの血小板減少は高頻度で発現し、治療継続の大きな妨げとなる。プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、リネゾリド投与患者で使用されることも多く、本研究ではリネゾリドの血小板減少に対するPPIの影響と薬物間相互作用について検討した。方法 リネゾリド投与患者150名を対象とした後方視的研究及びFDA有害事象報告(FAERS)データベース解析により、血小板減少に対するPPIの影響を調査した。また、ヒト有機アニオントランスポータ3(hOAT3)安定発現HEK293細胞を用い、リネゾリド及び代謝物(PNU-142300及びPNU-142586)の輸送実験を行った。結果 多変量解析より血小板減少の有意な危険因子としてランソプラゾールが抽出され、FAERS解析からも同様の結果が得られた。PNU-142586のみがhOAT3に輸送され、その輸送はランソプラゾールの同時曝露により抑制された。結論 ランソプラゾールは腎臓におけるhOAT3を介したPNU-142586の輸送を阻害し、リネゾリドによる血小板減少の危険性を増大させる可能性が示唆された。大阪大学医学部附属病院 薬剤部、大阪大学大学院医学系研究科 病院薬剤学、大阪大学大学院薬学研究科 病院薬剤学大阪大学大学院医学系研究科 病院薬剤学大阪大学大学院薬学研究科 病院薬剤学大阪大学医学部附属病院 薬剤部、大阪大学大学院医学系研究科 病院薬剤学、大阪大学大学院薬学研究科 病院薬剤学血小板減少のリスク因子の究明は安全な抗菌化学療法を実施する上で極めて重要と考えられる。 リネゾリドは、ラクタム経路でアミノエトキシ酢酸代謝物(PNU-142300)とラクトン経路でヒドロキシエチルグリシン代謝物(PNU-142586)に代謝され、正常腎機能患者においては親化合物のリネゾリドの血中濃度が最も高い。リネゾリドの生体内における消失経路として、尿中に未変化体が約35%、PNU-142586が約40%、PNU-142300が約10%排泄されることが知られている3)。しかしながら、腎機能低下患者ではリネゾリド及び代謝物の排泄が遅延し、血中濃度が上昇することが報告されている4)。また、腎機能低下患者においては、リネゾリドによる血小板減少が高頻度で発現するKey words:リネゾリド、血小板減少、プロトンポンプ阻害薬、有機アニオントランスポータ3、薬物間相互作用93池村 健治*1  王 丹妮*2 山根 章寛*3 奥田 真弘*4リネゾリド誘発性血小板減少に及ぼすプロトンポンプ阻害薬併用の影響Effect of concomitant proton pump inhibitors on linezolid-induced thrombocytopenia

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