*1 UESHIMA SATOSHI *2 KATSURA TOSHIYA はじめに要 旨 心房細動(atrial fibrillation ; AF)は、心原性脳塞栓症の最も重要な危険因子であり、心原性脳塞栓症の発症頻度はAF併存患者では4.9倍に上昇することが報告されている1)。また、AFの発症率と有病率は年齢と共に増加するとされている2)。従って、超高齢社会を迎えたわが国において、心原性脳塞栓症の発症を回避することはAF患者のQOLを確保する上で非常に重要である。従来、心原性脳塞栓症の治療および予防には、ビタミンK拮抗型抗凝固薬であるワルファリンが標準的な治療法として使用されてきた。しかし、ワルファリンは多くの薬物や食品と相互作用を起こすこと、ワルファリンの血中濃度の変動やこれに伴う薬効・有害反応の発目的 血液凝固第Xa因子阻害薬アピキサバンは添付文書に基づいて投与しても出血症状を高頻度で呈することが問題になっている。そこで本研究では、ゲノム薬理学的手法や薬剤疫学的手法を用いて、アピキサバン内服による出血症状の発現頻度に及ぼす患者背景や薬物動態関連遺伝子の影響について検討した。方法 アピキサバン内服患者121名を対象にゲノム薬理学的研究を実施した。また、日本や海外の有害事象自発報告データベースを用いて、ABCG2阻害薬フェブキソスタットがアピキサバン内服による出血症状に及ぼす影響に関する薬剤疫学的研究を実施した。結果・考察 ゲノム薬理学的解析により、ABCG2 421A/A遺伝子型を保有する患者では、C/CやC/A遺伝子型を保有する患者と比較して出血頻度が有意に高くなることが明らかになった。また、薬剤疫学的解析により、フェブキソスタットのABCG2阻害作用によりアピキサバンの出血頻度が上昇する可能性が示された。立命館大学薬学部 医療薬学研究室2立命館大学薬学部 医療薬剤学研究室現に個体差が大きいことが知られている3,4)。従って、ワルファリンの投与量を調節する際には、プロトロンビン時間の国際標準比を抗凝固作用の指標として定期的にモニタリングする必要がある。 アピキサバンは活性型血液凝固第X因子(第Xa因子)を直接阻害するビタミンK非依存性経口抗凝固薬(DOAC)であり、非弁膜症性AF患者における心原性脳塞栓症の発症抑制や静脈血栓塞栓症の治療および再発抑制目的で投与される。アピキサバンは血液凝固機能検査を必要とせずに、体重や年齢、血清クレアチニン値に基づいて添付文書に記載されている用量・用法で投与される。また、アピキサバンはワルファリンと同等またはそれ以上の有効性を示す他、ワルファリンを対照とした国際共同第Ⅲ相試験において、出血性イベントのKey words:アピキサバン、乳がん耐性タンパク質(ABCG2)、遺伝子多型、ゲノム薬理学、薬剤疫学102上島 智*1 桂 敏也*2アピキサバン内服による出血症状の危険因子に関するゲノム薬理学と薬剤疫学の融合研究Pharmacogenomic and pharmacoepidemiologic study on risk factors affectingbleeding in Japanese patients with atrial fibrillation treated with apixaban
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