臨床薬理の進歩 No.44
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対象と方法発現率がワルファリンに比べ有意に低かったことが報告されている5)。しかし、添付文書に記載されている用法・用量に準拠してアピキサバンを投与しても、頭蓋内出血や消化管出血など致死性の大出血が報告されている6)。また、経口抗凝固薬による頭蓋内出血の頻度は年齢と共に上昇することを考慮すると7)、高齢者にアピキサバンを投与する際にはより慎重な投与量の調節が必要である。さらに、アピキサバンによる出血を惹き起こす潜在的な要因を解明し、これに基づくアピキサバンの投与設計法を構築することは第Xa因子阻害薬の適正使用を実践する上で重要である。 アピキサバンは小腸や肝臓において薬物代謝酵素CYP3A4/5で代謝される。また、アピキサバンは薬物排出トランスポーター乳がん耐性タンパク質(BCRP; ABCG2)やP糖タンパク質(P-gp; ABCB1)の基質であり、これらのタンパク質が消化管から管腔側への排泄、肝臓から胆汁中への排泄、腎臓から尿中への排泄に関与している8)。これまでに当研究室において、アピキサバンの臨床薬理学的研究を進めており、CYP3A5 6986A>G(CYP3A5*3)、ABCG2 421C>Aがアピキサバンの体内動態に影響を及ぼすことを明らかにしてきた9,10)。また、治験の被験者を対象としたアピキサバンの曝露/応答解析(E-R解析)より、出血の発現頻度は定常状態時におけるアピキサバンの血中濃度-時間曲線下面積(AUC)と関係することが示されていることから11,12)、これらの代謝酵素やトランスポーターがアピキサバンの体内動態や有害反応を規定する因子になり得ると考えられる。しかし、多様な背景を持つ患者において、アピキサバンによる出血の発現に関する危険因子については未だ不明な点が多いのが現状である。 近年の情報科学の著しい発展に伴って、実臨床における薬物の有害反応に関する多種多量の情報(医療ビッグデータ)を収集することが可能となり、これらの情報を活用した解析が精力的に展開されている。治験段階において、CYP3A4/5やABCB1を介したアピキサバンの薬物相互作用試験は実施されているが、ABCG2を介したアピキサバンの薬物間相互作用は検討されておらず、未だ不明な点が多いのが現状である。 以上の背景を踏まえ、本研究ではAF患者を対象に、薬物動態関連遺伝子多型を含めた患者背景とアピキサバン内服による出血症状の発現頻度の関係について解析した。また、医療ビッグデータを用いて、ABCG2阻害作用を示す高尿酸血症治療薬フェブキソスタットがアピキサバンによる出血症状の頻度に及ぼす影響についても併せて解析した。解析対象患者 滋賀医科大学医学部附属病院循環器内科を受診し、アピキサバンの錠剤(エリキュース®、Bristol-Myers Squibb社/Pfizer社)を内服した成人のAF患者を対象とした。解析対象患者に係る情報については、電子カルテから収集した。臨床データの収集方法、本研究内容、実施手順、患者の倫理的配慮および個人情報保護に関する事項については、同院倫理委員会と立命館大学「人を対象とする医学系研究倫理審査委員会」による承認を得た後に実施した。本研究に参画する薬剤師が解析対象患者に文書による十分な説明を実施し、解析対象患者から文書による同意を取得した上で本研究を実施した。なお、認知機能の低下等によりインフォームド・コンセントを実施することができなかった患者やアピキサバンの投与履歴が不明瞭な患者については解析対象外とした。血液検体の採取 アピキサバンを1日2回、1回2.5、5または10 mgを4日以上継続して服用している患者から、EDTAを添加した採血管を用いてゲノムDNA抽出用の血液を2 mL採取した。ゲノムDNA抽出用の血液については、SNP解析を実施するまで4 ℃で冷蔵保存した。103

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