臨床薬理の進歩 No.44
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考  察(95%CI:1.31–12.8)であった。ABCG2を介したアピキサバンとフェブキソスタットの相互作用に関する薬剤疫学的解析 解析対象期間におけるJADERの報告件数は509,018件であり、このうち薬物による出血症状の報告件数、アピキサバンによる出血症状の報告件数はそれぞれ41,850件、5,966件であった。また、アピキサバンとフェブキソスタットの併用による出血症状の報告件数は206件であった。アピキサバンによる出血症状の発現に関するRORは15.5(95%CI:14.9–16.1)であり、95%CIの下限値が1よりも大きくなった。また、アピキサバンとフェブキソスタットの併用による出血症状の発現に関するRORは21.0(95%CI:16.5–26.8)であり、アピキサバンによる出血症状の発現に関するRORよりも有意に大きくなった(p < 0.05)。 また、解析対象期間におけるFAERSの報告件数は9,647,655件であり、このうち薬物による出血症状の報告件数、アピキサバンによる出血症状の報告件数はそれぞれ689,195件、34,055件であった。また、アピキサバンとフェブキソスタットの併用による出血症状の報告件数は317件であった。アピキサバンによる出血症状の発現に関するRORは3.39(95%CI:3.35–3.43)であり、95%CIの下限値が1よりも大きくなった。また、アピキサバンとフェブキソスタットの併用による出血症状の発現に関するRORは5.38(95%CI:4.72–6.13)であり、アピキサバンによる出血症状の発現に関するRORよりも有意に大きくなった(p < 0.05)。 本研究ではAF患者を対象に、薬物動態関連遺伝子多型を含めた患者背景とアピキサバン内服による出血症状の発現頻度の関係についてゲノム薬理学的手法を用いて解析した。また、フェブキソスタットがアピキサバンによる出血症状の頻度に及ぼす影響について薬剤疫学的手法を用いて解析した。 アピキサバンを内服したAF患者において、出血症状の発現頻度と臨床検査値やアピキサバンの投与量、併用薬の関係について解析した結果、D/BWが多い患者では出血しやすい傾向が認められた(図1)。また、出血症状の発現頻度と薬物動態関連遺伝子多型の関係について解析した結果、ABCG2 421A/A遺伝子型を保有する患者ではC/CやC/A遺伝子型を保有する患者と比較して出血の発現頻度が有意に高かった(図2)。これまでに著者らはアピキサバンの薬物動態/ゲノム薬理学的解析を進めており、CYP3A5*3やABCG2 421A/A遺伝子型を保有する患者では、アピキサバンの経口クリアランスが低下する結果、血中濃度が上昇することを明らかにしている10)。また、Ⅰ–Ⅲ相試験の被験者データを対象としたアピキサバンのE-R解析結果が報告されており、定常状態時におけるアピキサバンのAUCの上昇に伴い出血症状のリスクが上昇する一方で、血栓塞栓症のリスクは低下することが報告されている11,12)。従って、本研究においてABCG2 421A/A遺伝子型を保有する患者ではアピキサバンの曝露量が増大し、出血しやすい状態にあった可能性が考えられる。 次に、JADERやFAERSを用いてアピキサバンとフェブキソスタットの相互作用について解析した結果、いずれのデータベースを用いてもアピキサバンによる出血症状の発現に関するRORの95%CIの下限値が1よりも大きくなったことから、アピキサバンによる出血症状の発現頻度はフェブキソスタット併用により有意に高くなる可能性が示唆された(表3、4)。フェブキソスタットはABCB1やABCG2の基質であると報告されていないが、フェブキソスタットがABCG2を介した抗がん薬メトトレキサートの輸送や尿酸の輸送を阻害することが報告されている13,14)。また、これまでに著者らは、フェブキソスタットを併用するAF患者ではアピキサバンの血中濃度を上昇させることを医療薬学フォーラムファーマシーシンポジウムで発表している。従って、本研究においてフェブキソスタットがABCG2を介したアピキサバンの輸送を107

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