臨床薬理の進歩 No.44
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*1 SHOJI KENSUKE *2 HIKINO KEIKO *3 SAITO JUMPEI *4 MUSHIRODA TAISEI はじめに要   旨 ボリコナゾールはアゾール系に分類される抗真菌薬であり、様々な真菌に幅広い活性を持つ。特にアスペルギルス症の治療では第一選択として使用され、また白血病の化学療法中、造血幹細胞移植後など、極度の免疫不全状態においては真菌感染症の予防投与薬としても使用される重要な抗真菌薬である。ボリコナゾールの効果は、血中濃度と関連があることが知られている。血中濃度のトラフ値が1 µg/mL以下では効果が不十分であり、治療として用いた場合は予後の悪化と関連し、予防として用いた場合は予防内服中の真菌感染の発症と関連がある。またトラフ値が4-5 µg/mL以上になると目的 薬物代謝酵素であるCYP2C19の遺伝子多型が小児のボリコナゾールの薬物動態に与える影響について明らかにすること。方法 対象となった患者の血液検体(造血幹細胞移植後患者の場合は移植前に採取、保存されていたDNA検体)を用いて全ゲノムジェノタイピングを行った。CYP2C19の遺伝子多型と患者背景の情報を統合し、母集団薬物動態解析を行った。ステップワイズ法により共変量を検討した。結果 共変量探索では、CYP2C19遺伝子多型(intermediate metabolizer(IM)およびpoor metabolizer(PM))、γ-GT(Grade 2以上)、CRPが阻害率(Vmax,inh)の、剤形が生物学的利用率(F)の共変量として組み込まれた。Vmax,inhはCYP2C19 遺伝子型のうちIMおよびPMでは、完全に阻害を示すと予測された。γ-GT Grade 2以上は、Grade 2未満の時と比較しVmax,inhの推定パラメータが4.5高くなることが示された。またCRP上昇によりVmax,inhの上昇が生じることが示された。結論 CYP2C19遺伝子多型(IMおよびPM)、γ-GT、CRPがVmax,inhに、剤形がFに影響を与えていた。国立成育医療研究センター 感染症科理化学研究所生命医科学研究センター ファーマコゲノミクス研究チーム国立成育医療研究センター 薬剤部理化学研究所生命医科学研究センター ファーマコゲノミクス研究チーム肝機能障害や視覚障害などの副作用が増加するため、その血中濃度を1-4 µg/mLに保つことが望ましい1)。ボリコナゾールの薬物動態は個人差が非常に大きく、一律の投与量では最適な血中濃度を達成することは困難であるため、血中濃度を測定し、それにより投与量を調節するtherapeutic drug monitoring(TDM)を行うことが推奨されている1)。ボリコナゾールの血中濃度の個人差が大きい理由の一つとして、ボリコナゾールの代謝酵素であるチトクロムP450 2C19(CYP2C19)の遺伝子多型の存在が知られている。CYP2C19のアリルでは、*1が通常の代謝活性を示す野生型で、*17が代謝亢進、*2及び*3が代謝能が低い型として知られている。この組み合わせにより、ultra rapid metabolizer(URM)、Key words:小児、ボリコナゾール、遺伝薬理学、薬物動態学、母集団薬物動態解析110庄司 健介*1 曳野 圭子*2  齊藤 順平*3 莚田 泰誠*4遺伝的要因がボリコナゾールの薬物動態に与える影響Influence of genetic factors on voriconazole pharmacokinetics

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