臨床薬理の進歩 No.44
125/235

対象と方法rapid metabolizer(RM)、intermediate metabolizer (IM)、poor metabolizer(PM)等に分類される。欧米においては、この遺伝子多型に基づいたボリコナゾール投与のガイダンスが存在する2)。それによれば、URMやPMでは適切な血中濃度を達成することが困難なので、ボリコナゾールは使用せず、代替薬としてポサコナゾールやアムホテリシンBを使用することが推奨されている。しかしながら、このポサコナゾールは本邦では小児適応がなく、アムホテリシンBは副作用の懸念が強く使用しづらい抗真菌薬であることから、本邦の臨床現場ではボリコナゾールの投与を避けるのは現実的ではない。また、ボリコナゾールの代謝には、CYPのみならず、フラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO)の関与も知られている3)。また、過去の報告では、アジア人は、その他の人種と比べCYP2C19 PMの割合が高く、URMはほとんど報告されていない。過去にセント・ジュード小児研究病院からの報告では免疫不全患者におけるCYP2C19遺伝子多型と血中濃度の関連性を調べ、遺伝子多型と年齢が血中濃度に関連することが示された4)。シンシナティ小児病院からの報告では造血幹細胞移植前の予防投与患者におけるCYP2C19遺伝子多型と血中濃度の関連性が示され、さらにCYP2C19遺伝子多型に基づいた用量設定でより早く至適濃度に達することが示された5)。しかしながら本邦の添付文書やガイドラインにおけるボリコナゾールの投与量の記載はそれらの研究と異なる。記載されている情報はCYP2C19遺伝子のみであり、アリルも*1、*2、*17に限られ、東アジア人で多く見られる*3は含まれていない。CYP3A5やCYP2C9遺伝子との関連性を調べた研究では結果がconflictingであり6〜8)、エビデンスが不足している。さらに、FMO遺伝子多型との関連性を調べた研究はなされていない。日本人小児においては遺伝子多型がボリコナゾールの薬物動態、予後や副作用に与える影響、さらに併用薬の血中濃度との関連性について調べたデータはほとんどないのが現状である。本邦の小児患者におけるCYP2C19をはじめとした薬物代謝酵素の遺伝子多型等がボリコナゾールの薬物動態、予後や副作用に与える影響が明らかとなれば、遺伝子情報に応じたボリコナゾール投与設計の最適化につなげられる可能性がある。そこで、今回、薬物代謝酵素の遺伝子多型がボリコナゾールの薬物動態に与える影響についての検討を行うこととした。対象 国立成育医療研究センターに入院または通院している患者で、ボリコナゾールの投与が過去に行われた、または今後行われる予定の者を対象とした。研究対象者として拒否の申し出があった患者は除外した。遺伝子解析 対象となった患者の血液検体(造血幹細胞移植後患者の場合は移植前に採取、保存されていたDNA検体)を用いて以下の遺伝子解析を行った。全ゲノムジェノタイピング 60サンプルについて、Illumina HumanOmni ExpressExome-8v1-2によりジェノタイピングを行った。ジェノタイピングデータの品質管理(QC) サンプルのQCとしては以下を除外基準とした。(1)サンプルコール率<0.98、(2)遺伝的に同一、(3)遺伝子型および表現型の性別が不一致、(4)ジェノタイピングしたサンプルと国際ハップマッププロジェクトの3大参照集団(アフリカ人、欧州人、東アジア人)を用いて主成分分析を適用し特定した東アジア集団からの外れ値9,10)。この結果、除外サンプルはなかった。SNPのQCとしては以下を除外基準とした。(1)コール率 <0.99、(2)p-values for Hardy-Weinberg equilibrium(HWE) <1.0×10-6。QCはPlink v.1-9ソフトを使用した11)。111

元のページ  ../index.html#125

このブックを見る