臨床薬理の進歩 No.44
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*1 UTANO TOMOYUKI *2 TAKEBAYASHI AKIRA *3 KATO MOTOHIRO *4 TSUJIMOTO SHIN-ICHI *5 TANOSHIMA REO *6 YAMATANI AKIMASA はじめに要   旨 悪心や嘔吐症状は、抗悪性腫瘍剤の有害反応として最も頻度が多いものの一つであり、悪心や嘔吐の症状を上手くコントロールすることは、患者のquality of life(QOL)を向上させるだけでなく、治療に対する意欲を継続的に維持し治療を完遂する上で重要である。制吐剤の使用は、抗悪性腫瘍剤の催吐リスクに応じた支持療法が行われる。シスプラチン使用時などの高度催吐性リスクに対してはneurokinin-1(NK1)受容体拮抗薬、目的 本邦では2017年に制吐目的としてオランザピンが使用可能となったが、小児における有効性や安全性の情報は限られている。今回、日本人小児がん患者に対する制吐剤目的のオランザピンの有効性と安全性について検討した。方法 2020年11月から2022年9月までに国立成育医療研究センターで制吐目的としてオランザピンを使用した患者14名(化学療法施行数17コース)を対象とした。有効性の評価は、主にComplete Control(CC)を用いて評価を行った。安全性の評価は、有害反応を調査し、CTCAE ver5.0を用いて評価を行った。結果 全期間、急性期、遅発期のCC率はそれぞれ71%、76%、82%であった。オランザピン投与後の主な有害反応は、傾眠が88%、高血糖が71%、高トリグリセリド血症が47%であり、1名はGrade4の高トリグリセリド血症であったが、その他は全てGrade2以下であった。結論 制吐剤目的のオランザピンは、小児患者においても一定の効果が認められ、安全に投与可能であった。国立成育医療研究センター 薬剤部国立成育医療研究センター 小児がんセンター       同   上横浜市立大学附属病院 小児科     同   上国立成育医療研究センター 薬剤部5-hydroxytryptamine-3(5-HT3)受容体拮抗薬およびデキサメタゾンの併用が推奨されているが1,2)、実臨床ではこれらの制吐剤を併用しているにもかかわらず、効果が不十分で悪心や嘔吐が認められる患者を経験し、しばしば治療中のQOLを低下させる。 近年、新規制吐剤として向精神病薬であるオランザピンの制吐作用が報告され3,4)、NCCN Guideline for Antiemesis 2017およびMASCC/ESMO Antiemetic Guideline 2016より、高度催吐性リスクに対する支持療法の選択肢として新たにオランザピンの使用が明記された。それに伴い、本邦においてはKey words:オランザピン、小児、制吐剤、嘔気、嘔吐125歌野 智之*1  竹林 晃*2 加藤 元博*3 辻本 信一*4 田之島 玲大*5 山谷 明正*6日本人小児がん患者に対する制吐目的のオランザピンの有効性および安全性Efficacy and safety of olanzapine for prevention of chemotherapy-induced nausea and vomiting in Japanese pediatric patients

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