臨床薬理の進歩 No.44
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対象と方法療法に適することもPPIとの相違点である。PPIの課題の多くを克服したボノプラザンは将来的にGERDの第一選択薬になり得ると期待されている。 PPIは主としてCYP2C19で代謝されるが、CYP2C19の遺伝子型のうちrapid metabolizer(高代謝型)が日本人には36%いるため3)、効果持続時間の個人差が大きい。一方、ボノプラザンは主にCYP3A4で代謝されるため個人差が少ないと考えられている4)。Akiyamaら5)はPPI抵抗性GERD患者(n=13)に対してボノプラザン20 mg/dayを8週間投与したところ、有意に胃酸分泌が抑制されたと報告している。 しかしながら、昨今、ボノプラザン抵抗性GERD患者が一定数存在することが明らかとなり6,7)、臨床上の問題となっている。2021年に日本消化器病学会よりGERD診療ガイドライン改訂第3版が発刊されたが、future clinical questionの1つとしてボノプラザン抵抗性GERDについて言及されており8)、その病態解明が課題とされている。CYP3A4の遺伝子多型などに起因する薬物代謝能障害や非酸逆流に対する食道知覚過敏が病因として疑われるが、未だ十分に検討されていない。今回、ボノプラザン抵抗性GERD患者の酸分泌状態を評価し、その病態について検討した。研究倫理 本研究はヘルシンキ宣言に従っており、東京慈恵会医科大学倫理委員会より承認を得て行った(受付番号:30-299(9320)および30-304(9325))。対象 2021年1月から2022年9月までの期間に当院にて逆流症状に対して、高解像度食道内圧検査(high-resolution manometry;HRM)と24時間多チャネル・インピーダンスpHモニター(24-hour multichannel intraluminal impedance-pH monitor;MII-pH)検査をともに行った患者(n=109)のうち、上部消化管手術の既往のある患者(n=41)以外で、ボノプラザン抵抗性GERDの定義を満たした患者(n=4)を対象とした。食道機能検査(HRMおよびMII-pH検査)は、ボノプラザン20 mg/dayを8週間以上継続内服した状態で行われた。各症例の患者背景、HRM検査結果、MII-pH検査結果および臨床経過について調査した。ボノプラザン抵抗性GERDの定義 薬剤抵抗性GERDの定義は報告により異なり5–7)、未だ一定の見解はない。本研究ではボノプラザン20 mg/dayを8週間以上継続内服しても、①主症状の改善が全くみられない(partial response症例は薬剤反応性GERDとした)、または②内視鏡的に食道炎が消失しない(ロサンゼルス分類grade A–Dを内視鏡的食道炎とした)、のいずれか一方でも満たした場合をボノプラザン抵抗性GERDと定義した。本研究はボノプラザン抵抗性GERD患者における酸分泌状態を評価することを目的としており、偽抵抗性GERDの可能性を小さくするために診断基準を既報よりも厳しく設定した。High-resolution manometry Starlet® HRMシステム(Star Medical Inc., Tokyo, Japan)を用いて食道運動機能評価を行った。HRMカテーテルは36個の圧センサー(unidirectional slid-state pressure transducer)が1 cm間隔に設置されており、全食道の圧力を同時に、かつ経時的に測定できるようにデザインされている。6時間以上の絶食後、キャリブレーションしたHRMカテーテルを経鼻的に挿入し、上部食道から胃噴門直下まで圧センサーを留置した。仰臥位で水5 mLの単嚥下を10回測定し、シカゴ分類9)に従って食道運動機能を診断した。HRM解析はStarlet® HRMシステム専用の解析ソフトウェアであるemhr Add-in Version 1.1.17.4(DCI)[128ch](Star Medical)を用いた。なお、各HRM測定値の基準値はKuribayashiら10,11)とMasudaら12)の報告に従った。 図1に健常者のHRM画像について示す。圧力134

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