臨床薬理の進歩 No.44
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考  察図4 Case 3食道胃接合部にLESとCDの分離はみられず(single-high pressure zone)、食道裂孔ヘルニアは認めなかった。食道体部蠕動は微弱であり、シカゴ分類上は食道無蠕動であった。CD, crural diaphragm; LES, lower esophageal sphincter; UES, upper esophageal sphincter.②HRM(図4): 仰臥位では咳嗽が誘発されるため、座位にて検査を行った。食道裂孔ヘルニアはなく、食道体部蠕動波は微弱であった。DCIは全嚥下で低値であり、食道無蠕動と診断した。③MII-pH検査(ボノプラザン内服下): 胃内酸曝露時間率は8.4%(日中12.6%、就寝中2.3%)とボノプラザンによる酸分泌抑制効果は十分であった。食道内酸曝露時間率は0.4%であり、DeMeesterスコアは1.6と異常酸逆流は認めず、またインピーダンス測定では液体逆流は25回のみでMNBIも3174 Ωと正常値であった。検査中に咳嗽は46回あり、SI 10.9%(正常値<50%)、SSI 20.0%(正常値<10%)であった。このことから、液体逆流は咳嗽の原因となっているが、咳嗽には逆流以外の因子(気道の刺激など)も関与していると解釈した。また、胸やけは5回あり、SI 80.0%、SSI 16.0%、SAP 100.0%(陽性≥95%)と逆流との明らかな相関を認めた。以上より、食道知覚過敏症と診断した。④臨床経過: 腹腔鏡下Toupet噴門形成術を施行した。術後は咳嗽発作が完全に消失し、ボノプラザンの内服は不要となった。Case 4①患者背景: 49歳、女性。5年前から逆流感と呑酸症状があり、増悪・寛解を繰り返していた。来院3カ月前から症状が増悪し、前医でボノプラザン20 mg/dayを継続投与されたが全く改善せず、ボノプラザン抵抗性GERDと診断した。②HRM(図5): 食道裂孔ヘルニアはなく、DCIも正常であった。正常食道蠕動と診断した。③MII-pH検査(ボノプラザン内服下): 胃内酸曝露時間率は0%で、ボノプラザンによる酸分泌抑制効果は十分であった。液体逆流数は19回のみで、MNBIは5560 Ωと正常値であった。検査中に逆流感が72回あり、SI 15.3%、SSI 57.9%であったため、液体逆流は逆流感の原因となっているが、症状には逆流以外の因子が大きく関与していると解釈した。また呑酸は40回あり、SI 22.5%、SSI 47.4%と、やはり逆流以外の因子の影響が大きかった。④臨床経過: 症状と液体逆流との相関性がなかったため、機能性食道障害(functional esophageal disorder)と診断し、経過観察とした。 今回、ボノプラザン抵抗性GERDと診断された患者は4/68例(5.9%)と少なく、MII-pH上、全例で十分な酸分泌抑制効果が確認され、また異常酸逆流はみられなかった。GERDは「胃食道逆流により引き起こされる食道粘膜傷害と、煩わしい症状のいずれかまたは両者を引き起こす疾患」と定義されるが、GERD症状は①酸逆流以外にも、②胆汁や膵液などの非酸逆流や③食道知覚過敏によっても引き起こされ得るため、その病態は複雑である。Hamadaら7)はボノプラザンによる強力な酸分泌抑制作用は、酸逆流がGERD症状に関与しているか否かの判断に有用であったと報告している。本研究でも同様にボノプラザンの強力な酸分泌抑制作用が確認されたが、ボノプラザン抵抗性GERDの病態には非酸逆流による粘膜傷害や食道知覚過敏といった酸逆流以外の因子が主に関与している可能性138嚥下微弱蠕動波食道体部UESLES+CD5 s

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