臨床薬理の進歩 No.44
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方  法結  果のリン脂質からリン脂質分解酵素ホスホリパーゼA2の1種であるPAF-AH2(Platelet-activating factor acetylhydrolase 2)によって遊離されることが報告されている6)。そこで本研究は、ω3エポキシ脂肪酸およびその産生酵素であるPAF-AH2がどのように肺高血圧の病態に関わるかを明らかにし、肺血管リモデリングを改善する根本的な治療薬となりうる創薬シーズを探索することを目的とする。研究の倫理性 本研究における動物実験の実施については、慶應義塾大学医学部実験動物センターで承認されている(No. D2012-021、No. 15063)。 この研究は、慶應義塾大学病院の倫理審査委員会(IRB No: 20140203)によって承認されており、すべての遺伝子検査は、遺伝カウンセリング後に患者からのインフォームド コンセントを得て実施された。90人の特発性肺動脈性肺高血圧症(PAH)、61人の遺伝性PAH、および54人の結合組織病関連PAHを含む262人の血液サンプルを用いて解析した(平均年齢45.5±16.6歳、女性78.0%、平均肺動脈圧42.9±15.5 mmHg)。HiSeq 2500プラットフォーム(Illumina、San Diego、CA)とSure Select XT Human All Exon Kit(Agilent Technologies、Santa Clara、CA)をハイブリダイゼーション キャプチャに使用して、全エクソームシーケンスを実行した。バリアントの病原性は、CADD、SIFT、およびPolyPhen-2で評価した。PAH 患者の全エクソームシーケンシングデータからPafah2の病的変異候補を同定するために、CADD スコア> 30(MIS30)のミスセンス変異を選択した。統計解析 データは平均値 ±SEMとして表す。統計分析は、GraphPad Prism version 9を使用して行った。2群比較には、unpaired Student’s T検定を用いた。複数のグループを比較する際は、一元配置または二元配置のANOVAとそれに続くpost hoc test(Bonferroni's test, Tukey's test, Dunnett's test)を用いた。p < 0.05 は、統計的に有意な差と考えた。1)PAF-AH2ノックアウトマウスは低酸素曝露肺高血圧が重症化する ω3エポキシドおよびその産生酵素であるPAF-AH2が肺高血圧の病態に寄与するか明らかにするため、我々はPAF-AH2(Pafah2)KOマウスを10%酸素濃度の低酸素曝露で肺高血圧を誘導し、解析を行った。低酸素曝露8週後の肺高血圧肺ではPAF-AH2の発現が低下しており(図1a)、ω3エポキシ脂肪酸17,18-EpETE、19,20-EpDPAはPafah2 KOマウス肺において顕著に減少していた(図1b)。低酸素曝露肺の組織学的解析を行ったところ、肺血管中膜の肥厚を含む血管リモデリングがPafah2 KOマウスにおいて増悪していた(図1c、d)。また、心臓の右室収縮期圧も、Pafah2 KOマウスは有意に増悪しており(図1e)、右室肥大を示す右室重量/左室および中隔重量比の増大や心不全マーカーの遺伝子発現の上昇も、Pafah2 KOマウスで増悪を認めた(図1f、g)。野生型マウス(WT)は10%酸素濃度下で死に至ることはまれであったが、Pafah2 KOマウスは肺高血圧が重症化し100日後では約8割の高い致死率を示した(図1h)。PAF-AH2と同様のPAF-acetyl hydrolase活性を有するplasma type PAF-AHについてもKOマウス(Pla2g7 KOマウス)を用いて検証を行ったが、コントロールと比べ有意な肺高血圧の増悪は認めなかった(図1c-h)。Pafah2 KOマウスの血管リモデリングは、特に血管周囲の線維化が顕著であった(図1i、j)。2)肺マスト細胞のPAF-AH2が肺高血圧の病態を制御する 肺高血圧を誘導したマウス肺について免疫組織学的解析を行ったところ、PAF-AH2を強く発現している細胞は肺血管周囲に集積しており、マスト2

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