臨床薬理の進歩 No.44
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図1 酸素飽和度イメージング内視鏡(OXEI)の概要たすことによって化学療法や放射線療法に抵抗性になることが報告されている1)。これまでに腫瘍内における低酸素領域は、がん幹細胞や特殊な微小環境領域の存在との関係で薬剤耐性に関する解析が実施されてきたが、ヒト組織の生体内においてドラッグデリバリーとの関係での解析は未だ十分に検討されておらず、新薬の開発や治療成績の向上のためには解決すべき重要な課題となっている。 酸素飽和度イメージング内視鏡(Oxygen saturation endoscopic imaging: OXEI)は、国立がん研究センター東病院の消化管内視鏡科と富士フイルム株式会社で共同開発された機能診断内視鏡である(図1)2)。本内視鏡は、レーザー制御技術と画像処理技術を応用したシステムであり、酸化ヘモグロビン(HbO2)と還元ヘモグロビン(Hb)の吸収係数の違いにより、腫瘍内およびその周辺部の酸素飽和度をリアルタイムに画像化する技術である。ヒトを対象としたFirst in human試験において、消化管の腫瘍粘膜の酸素飽和度を視認可能であることが示唆され、本邦において2017年に薬事承認を取得した。しかし、臨床的有用性については現在まだ十分に分かっていない。 トリフルリジン・チピラシル塩酸塩(FTD/TPI)は、抗悪性腫瘍剤であるチミジン系ヌクレオシド類似体であるFTDとチミジンホスホリラーゼ阻害剤であるTPIをモル比1:0.5で配合された薬剤である。FTDはチミジンキナーゼ1(TK1)によりリン酸化され、DNA複製時にチミジンの代わりに取り込まれ、DNAの機能障害をきたすことで抗腫瘍作用を発揮する3)。FTD/TPIは2014年に治癒切除不能な進行再発の結腸直腸がんに対して製造販売承認を取得し4)、また、2019年には治癒切除不能な進行再発胃がんに対して新たに承認を得たが5)、耐性機序については未だ解明が不十分である。本研究では、FTD/TPI投与後にOXEIを実施し、腫瘍内の酸素飽和度領域別に取り分けた生検材のFTDの薬剤分布を評価することにより、酸素飽和度とドラッグデリバリーの観点からFTD/TPIの耐性機序について探索する。144

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