臨床薬理の進歩 No.44
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(a)(b)(c)図6 各酸素領域におけるTK1の発現とFTD濃度の関係(a)TK1発現(低酸素領域=高酸素領域)、(b)TK1発現(低酸素領域<高酸素領域)、(c)TK1発現(低酸素領域>高酸素領域)(6.32 µmol/gDNA)(6.32 µmol/gDNA)HETK1(11.97 µmol/gDNA)HETK1(7.06 µmol/gDNA)(13.70 µmol/gDNA)HETK1低酸素領域低酸素領域低酸素領域(12.48 µmol/gDNA)高酸素領域高酸素領域高酸素領域考  察を探索するために、低酸素領域と高酸素領域におけるFTD濃度比と治療効果との関係について検討した。RECIST ver1.1に基づく効果判定との関連を検討したところ、PD症例ではPR/SD症例と比較し、FTDの濃度比が大きい傾向、すなわち低酸素領域と高酸素領域のFTDの濃度差が大きくなる傾向を示した(図5a)。また、抗VEGFR-2抗体であるラムシルマブと併用した症例では、FTD/TPI単剤投与の症例と比較し、FTDの濃度比が小さい傾向、すなわち低酸素領域と高酸素領域のFTDの濃度差が小さくなる傾向を示した(図5b)。TK1発現のFTD濃度の関係 つづいて、酸素領域毎にDNA中のFTDの取り込みの差が生じる原因を探索するために、FTDのDNAへの取り込みに関与するTK1の活性について、酸素領域別に免疫染色を用いて検討した。結果、TK1発現は、酸素領域毎に一定の傾向を示さず、また、DNA中のFTD濃度との間にも一定の関係性は認められなかった(図6a、b、c) 腫瘍組織の低酸素に起因する薬剤耐性を克服するための治療開発が注目されている。従来、HIF-1など分子メカニズムに着目した研究が多く実施されてきたが、ドラッグデリバリーに基づく研究は、侵襲性や測定感度不足などの技術的な問題によって十分に検討されていなかった。本研究では、進行胃がんの低酸素領域では、高酸素領域と比較し、FTD/TPIのDNA取り込みが低下することにより治療抵抗性につながることが示唆された。一方で、PBMCのDNAから抽出したFTD濃度は組織中のFTD濃度と相関を認めなかったことから、固形がんのような不均一性が高い腫瘍の薬効や耐性機序を正しく評価するためには、組織サンプルを用いたPK/PD解析が重要であることが示唆された。149

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