臨床薬理の進歩 No.44
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利益相反(COI)結  語謝  辞 従来、内視鏡下で低酸素を検出する方法として、主に蛍光標識技術が用いられてきた。しかし、蛍光標識技術では標的への蓄積性が低く、また長時間の保持が困難であり蛍光の空間分布が不鮮明となることが多い7,8)。また、分子生物学的解析や組織標本も用いた免疫染色法ではex vivoで評価するため、低酸素領域をリアルタイムに視認することは不可能である。本研究で我々が用いた機能診断内視鏡であるOXEIは、通常の形態学的内視鏡と並行して実施することで、形態学に加えて、低侵襲でリアルタイムに低酸素状態を評価可能であり、高感度の質量分析と組み合わせることによって、消化器疾患のドラッグデリバリーを評価可能という点で、従来の方法と比較し優位性が高いといえる。 FTDのDNA中の取り込みにはTK1が主に関与しており、TK1は、FTDをリン酸化し、DNA複製時にチミジンの代わりに取り込まれることに寄与するため、TK1活性が高い場合、FTDの抗腫瘍効果が高くなる可能性が示唆されている9)。また、前臨床試験において、FTD/TPIの抗腫瘍活性は、DNAへ取り込まれたFTD濃度の量と正の相関があることが報告されている。本研究において、高酸素領域では低酸素領域と比較し、有意にDNA中のFTD濃度が高値を示したが、TK1発現と組織中のDNA濃度に一定の関係性は認められなかった。したがって、酸素領域毎におけるFTD濃度の差はTK1活性の差によるDNAへの取り込みによる差ではなく、ドラッグデリバリーによる差に起因することが示唆される。実際に血管成熟度で評価したところ、低酸素領域においては高酸素領域と比較し、α-SMAに裏打ちされていない未熟な血管が有意に多いことが示された。 また、VEGFを阻害する薬剤は、腫瘍血管を正常化することにより、腫瘍への薬剤供給が改善されることが期待されている。FTD/TPIにおいても、大腸がん細胞株を用いたマウスモデルにおいて、VEGF抗体であるベバシズマブとの併用により抗腫瘍効果と腫瘍内のリン酸化FTDが増加し、VEGF阻害を含むマルチターゲット阻害剤であるニンテダニブとの併用においてはDNAに取り込まれるFTDの濃度が増加することが報告されている9,10)。本研究においても、ラムシルマブと併用した症例では、FTD/TPI単剤投与の症例と比較し、FTDの濃度比が小さい傾向、すなわち低酸素領域と高酸素領域のFTDの濃度差が小さくなる傾向を示した。以上より、進行・再発胃がんにおいて、低酸素領域が多い腫瘍においては、FTD/TPIとラムシルマブの併用の有用性が高い可能性が示唆された。本研究は少数例での検討であるので、今後、より多くの症例を用いた前向きな検討が望まれる。 本研究は、機能診断内視鏡であるOXEIを用いてヒト組織のPK/PD解析を実施することにより、不均一な組織におけるドラッグデリバリーの差異を示した。ドラッグデリバリーの差異は耐性機序にも関連するため、今後、新規薬剤の開発において、OXEIを用いて腫瘍組織中のPK/PDを評価することにより、新規薬剤の作用機序や耐性機序の解明につながることが期待される。 本研究を遂行するにあたり、研究助成を賜りました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に心より感謝申し上げます。本研究にご協力いただきました患者様ならびにご家族様に御礼申し上げます。 本研究では大鵬薬品工業より研究資金をご提供いただきました。また富士フイルム株式会社より酸素飽和度イメージング内視鏡をご提供いただきました。150

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