臨床薬理の進歩 No.44
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*1 MAKINO TOMOKI *2 HAYASHI YOSHINORI *3 SATO EIICHI *4 WADA HISASHI *5 EGUCHI HIDETOSHI *6 DOKI YUICHIRO はじめに要   旨 食道癌は世界で6番目の死因である癌腫であり、近年集学的治療が進化したものの未だに予後不良である。直近では免疫チェックポイント分子阻害剤(ICI)が臨床導入され期待を集め、これにより多くの癌腫でがん免疫微小環境(TME)の重要性が再認識された1,2)。TMEにおける腫瘍浸潤免疫細胞は抗腫瘍免疫や予後に大きな影響を与えるとされ、とくに腫瘍特異的T細胞反応として知られる腫瘍浸潤T細胞(TIL)は食道癌を含むいくつかの癌腫で良好な予後との相関が報告されている3〜5)。しかし背景 3次リンパ様構造(TLS)は他癌で予後良好指標とされるが食道癌における意義は明らかでない。方法 2施設316例の食道癌切除標本の腫瘍辺縁TLS密度・成熟度をHE染色、(多重蛍光)免疫組織染色にて評価し臨床病理学因子との相関を検討した。さらに抗PD-1抗体(ICI)治療した再発食道癌34例のTLS発現意義についても検証した。結果 TLSは全体の90.8%に発現し、成熟度別では(未成熟から順に)E-/PFL-/SFL-TLS=74.7、54.1、64.9%の発現率であった。高密度のTLSには成熟TLSが多くCD138陽性細胞割合が多かった。TLS密度は腫瘍進行度、脈管侵襲、血清栄養指標、予後と相関し、とくに予後との相関は成熟TLSで顕著であった。再発食道癌では切除標本のTLS密度がICIの効果・予後と相関した。結語 TLS密度・成熟度は食道癌の予後、ICI効果予測に有用であった。大阪大学大学院医学系研究科 消化器外科学        同   上東京医科大学病院病理診断部大阪大学大学院医学系研究科 臨床腫瘍免疫学大阪大学大学院医学系研究科 消化器外科学        同   上食道癌のTMEにおけるB細胞や樹状細胞発現の臨床病理学的意義は未解明のままである。 TLSは慢性炎症などに伴う非リンパ組織における異所性リンパ球集合体であるが6,7)、癌、とくに炎症随伴癌での発現も報告されており、T・B細胞や他の免疫細胞の集合体で2次リンパ組織と類似する。TLSは免疫細胞の腫瘍流入を促進する作用が知られており、腫瘍免疫環境を改善する手段として注目されている。他癌ではTLSの発現や成熟度が腫瘍進行度や予後、治療効果と相関することが報告されているが8〜12)、食道癌におけるTLSのエビデンスは皆無である。本研究では食道癌における腫瘍辺縁Key words:3次リンパ様構造、食道癌、免疫チェックポイント分子阻害剤、がん免疫微小環境、予後152腫瘍辺縁3次リンパ様構造は食道癌の予後および免疫療法の治療効果を予測するDensity and maturity of peritumoral tertiary lymphoid structures predicts patient survival and response to immune checkpoint inhibitor in esophageal cancer牧野 知紀*1  林 芳矩*2 佐藤 永一*3 和田 尚*4 江口 英利*5 土岐 祐一郎*6

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