臨床薬理の進歩 No.44
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考  察(図3C)。特記すべきことに、CD138陽性形質細胞割合がTLS成熟度と有意に相関した(E- vs PFL- vs SFL-TLS = 6.6 vs 7.5 vs 13.4%、p < 0.0001)(図3D)。再発食道癌に対する抗PD-1抗体の治療効果および予後予測におけるTLS発現意義 さらに再発食道癌に対して抗PD-1抗体投与した別コホート34例の切除標本におけるTLS密度および成熟度について検討した。抗PD-1抗体の奏効例および非奏効例の代表的な切除標本における腫瘍辺縁TLS発現写真を図4Aに示す。興味深いことに、(抗PD-1抗体治療より以前の)手術時の切除標本におけるTLS密度(中央値)は抗PD-1抗体の治療効果と有意に相関し(responders vs non-responders; 0.45 vs 0.10 /mm2、p = 0.0059、CR/PR/SD/PD = 0.62/0.36/0.15/0.089 mm2)(図4B、C)、この傾向は成熟TLSであるPFL-TLSとSFL-TLSのみに認められた(図4D)。さらにTLS high群はTLS low群と比較してPFSが有意に良好であった(median PFS; 160 vs 52 days、p = 0.0040)(図4E)。 本研究は多施設由来の300を超えるlarge cohortでの術前無治療食道扁平上皮癌切除標本を用いて、TLSの発現および成熟性を定量的・客観的に評価した。全体の約9割にTLS発現がみられ、成熟度別の発現率はE、PFL、SFL-TLSにおいてそれぞれ74.7、54.1、64.9%であった。腫瘍のStageが進行するにつれTLS密度は減少した。TLS密度は成熟性と相関し、成熟性が上がるにつれ構成細胞数が増加し、とくにCD138陽性形質細胞割合が著明に増加した。術前無治療食道癌切除例ではTLS密度は独立予後因子であり、また再発食道癌において以前の手術時の切除標本におけるTLS密度は抗PD-1抗体治療効果および予後と相関した。我々の知る限り食道癌領域では腫瘍辺縁TLS発現と予後および抗PD-1抗体治療効果との相関を世界で初めて示した。 本研究では食道癌におけるTLSの発現、局在、成熟性を明らかにした。過去の報告をみると、胃癌や結腸直腸癌など多くの癌腫では腫瘍内または腫瘍辺縁TLSの高発現が腫瘍ステージや良好な生存と関連することが報告されている。一方でDingらの報告では肝内胆管癌でのperitumoral TLSの高発現は予後不良と関連した14)。成熟性に関しては、結腸直腸癌においてPoschらが我々と同様の方法でTLS成熟性を評価しており15)、胚中心を含む成熟したTLS(SFL-TLS)が再発リスクを予測しうることを報告した。肺癌ではTLS高発現が良好な予後を示すほか、化学療法や放射線治療後に成熟TLSが減少すること、TLS低発現の腫瘍におけるTLSは未成熟であることがSilinaらの報告で示されている11)。このようにTLSは臓器の組織型や癌腫により発現や局在、成熟性が異なり、さらに抗腫瘍免疫や患者予後に及ぼす影響も異なる。本研究では食道癌の腫瘍辺縁TLSの発現と成熟度は、多くの癌腫と同様に抗腫瘍効果に寄与することを示した。 本研究でみられたTLS発現と腫瘍進行度の逆相関は2つの機序を示唆している。すなわち1つはTLS形成による腫瘍増殖の抑制、もう1つは腫瘍によるTLS形成の抑制である。前者を支持する知見として、TLS形成を介した腫瘍特異的リンパ球や細胞傷害性リンパ球発現と良好な予後の関連が報告されている。一方で後者は腫瘍由来産物(癌抗原、ドライバー遺伝子変異)がTME形成に影響するという考えに基づいており、一部他癌での報告もみられる。これらは未だcontroversialであり、今後解明が期待される。また、本研究では興味深いことにTLS発現と年齢や血清の栄養免疫学的指標との相関がみられ、過去の胃癌での報告をサポートするものである16)。つまり食道癌症例においても若くて栄養指標の良い人は抗腫瘍免疫反応が活発であり、TLSを多く誘導している可能性がある。通過障害による体重減少・カヘキシーなどが多い食道癌患者において栄養・リハビリ介入の有用性を示唆するものかもしれない。 TLS密度が高い腫瘍には、成熟したTLSが多く160

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