臨床薬理の進歩 No.44
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考  察結  語謝  辞TMAO高値群と低値群でEFSに有意差はみられなかった(p=0.0927)。TMAO高値群でEFSが低い傾向にあった。 次に、本登録の血漿BNP値をz変換しその中央値で高値群および低値群の2群に分け、pTMAO高値および低値と組み合わせ、4群におけるEFSを比較した。カプランマイヤー曲線を図3に示す。4群のEFSに有意差は示されなかった(p=0.0804)。BNP高値群におけるpTMAO高値群が、他と比較しEFSが低い傾向にあった。 本研究では、冠動脈疾患の既往がない脂質異常症および糖尿病を合併した動脈硬化性疾患高リスクの日本人において、スタチン介入下におけるpTMAOの心血管イベント予測能を検証した。有意差は示されなかったが、pTMAO高値(≧6.77 µM)でEFSが低い傾向にあった。患者背景において、pTMAO高値群は有意にeGFRが低値であった。TMAOは腎排泄性代謝産物でありCKDの進行とともに血清濃度が増加し腎移植により低下する20, 21)。ループ利尿薬によるTMAOの腎排泄抑制22)、抗菌薬による腸内細菌除菌を介したTMAOの産生低下が報告されている15)。したがって、これらを考慮したCox比例ハザード解析により、pTMAOとEFSの相関を検証する予定である。 脂質異常症におけるスタチン介入は心血管イベントの一次予防、および二次予防の双方で推奨されている。スタチン介入群は非介入群と比べて有意にpTMAOが低く、心血管イベントが抑制され、さらに、pTMAO値がスタチン開始に伴い低下、中止に伴い増加することが示されている23)。スタチンは腸内細菌叢を変化させるため24)、TMAOの血中濃度を修飾する可能性がある。 本研究のコホートは強化脂質管理治療群および通常脂質管理治療群からなり、今後、両群で経時的なpTMAOの推移を比較、検証し、脂質低下の強度とpTMAOの相関を検証する。 さらに我々は、pTMAOをz変換したBNP値と組み合わせて評価することで、冠動脈疾患既往のない症例におけるpTMAOの心血管イベント予測能を検証した。有意差はみられなかったが、BNPのみでは予測しえない心血管イベント高リスク症例を、pTMAO高値と組みわせることで層別化しうる傾向にはあった。BNPは心不全の診断もしくは除外に有用な指標である。またBNP高値は心不全症例の全死亡、心血管イベントのリスク因子であるだけでなく、健常者や健診受診者の心血管イベントの予測因子としての有用性も報告されている25, 26)。既報では、BNPのみでは検出できない拡張不全型心不全の全死亡または心不全入院の高リスク群を、TMAOと合わせて評価することで層別化しうることが示されている27)。 脂質異常症および糖尿病網膜症を合併し、冠動脈疾患の既往のないスタチン内服症例において、血漿TMAO値は心血管イベント予測能を有する傾向にある。BNPと合わせて評価することで、BNPのみでは検出しえない心血管イベント高リスク群を特定できる可能性がある。今後、解析対象期間を拡大し、TMAOの心血管イベント予測能を検証する。 本研究を実施するにあたり、研究費助成を賜りました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に深く感謝いたします。169169

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