臨床薬理の進歩 No.44
197/235

例が少ないことが特徴となっています。また、国民性として、自身の個人情報が管理されているのではなく、より良い社会を実現するために自ら情報を提供しているという感覚があり、個人情報が研究に利用されることに関して非常に寛容です。国民性による後押しもあり、スウェーデンでは様々な医療情報レジストリが存在しており、データベース研究が盛んな理由の一つとなっています。 今回の対象疾患である脛骨骨幹部骨折は、大腿骨頚部骨折や橈骨遠位端骨折、膝関節の骨折などと比べ発生頻度は高くはないですが、骨折の中ではコンパートメント症候群の頻度が高く、遷延治癒しやすいとされており、近年の脛骨骨幹部骨折発生率に関する報告はないため、今回のプロジェクトが開始されました。対象期間は2002年から2016年の15年間で、解析は、未成年(n = 19,467)と成人(n = 21,671)で分け、成人は更に65歳未満(n = 15,494)と65歳以上の高齢者 (n = 6,177)で比較しております。結果は、未成年と成人では、男女共に脛骨骨幹部骨折の発生率は有意に低下し続けていました(年次変化率APC、95%信頼区間は、男性未成年: −3.4%、−4.4 to −2.4、女性未成年: −2.5%、−3.3 to −1.6、成人男性: −3.7%、−4.4 to 3.0、成人女性: −2.8%、−4.2 to −1.5)(図1、2)。一方、高齢者の場合は上昇し続けていることが分かりました(高齢男性: APC = 6.0%、3.6 to 8.4、高齢女性:APC = 6.6%、5.9 to 7.3)(図2)。また、発生原因別や季節別での解析により、スウェーデンが小児の骨折予防のために行った公園遊具の安全性対策や、交通インフラの整備と車の安全性向上の効果と関連づけ報告しております。今後は、KIと定期的にミーティングを続け、骨粗鬆症の基礎疾患の有無や、PINに紐づけされた年収、最終学歴との関連性を追加解析し、日本でのデータとの比較検討を計画しております。 留学中にCOVID-19という全世界的な問題が発生しましたが、私生活も含め、極めて有意義な留学生活を過ごすことが出来ました。留学先で出会った様々な方との交流により日本との文化や概念の違いを実感したことに加え、コロナ禍を日本とは医療体制や国民性が異なる地域で過ごしたことは非常に貴重な経験となりました。私は、留学中での経験からビッグデータ研究に興味が湧き、帰国後は、公衆衛生学講座に異動し研究活動を継続しております。そのため、今回の留学は私のキャリアに多大なる影響を与えたものとなっております。臨床薬理研究振興財団の多大なるご支援に、あらためて御礼申し上げます。また、ご推薦くださいました学校法人昭和大学 小口勝司理事長にも、感謝申し上げます。そして、快く留学に送り出してくださった同昭和大学臨床薬理研究所 小林真一所長をはじめ、留学先を紹介してくださった同内科学講座腎臓内科学部門の井芹健先生、留学に際して様々なご助力を頂きました同薬理学講座臨床薬理学部門の三邉武彦先生、諸先生方ならびにスタッフの方々にも、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。日々精進を重ねていく所存ですので、今後とも宜しくお願いいたします。最後に留学生活を支えてくれました妻と、生まれてきてくれた息子にも感謝いたします。誠にありがとうございました。177おわりに

元のページ  ../index.html#197

このブックを見る