臨床薬理の進歩 No.44
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写真3 MikeLenardo博士と、メリーランド州のレストランにていったトップジャーナルに発信し続けている方で、本人もScienceやJExpMedの編集委員を務めるなど、発想力、指導力ともに卓越した才能を有している方でした。さらに、文章力は他のPrincipalInvestigatorと比べても特筆すべきものがあり、読み手がワクワクするような文章を書くため、それに救われて研究結果以上のインパクトを出している印象を受けました。研究では、結果が第一であり、文章力やストーリー性を小手先のことと考え軽視する人も少なくないようですが、私は軽視するべきものではないと考えています。ノーベル賞級の発見なら否が応でも注目を集めますが、そうではないほとんどの発見は注目を浴びなければ、社会へのインパクトが落ちるため、せっかくの研究結果が埋もれてしまいます。たとえ同じ結果であっても、想像が膨らむようなストーリー、発展性が見込めるストーリーの方が退屈なストーリーよりも注目されるのは当然のことであり、どのように見せるか、という技術は結果を出すのと同じくらい重要なことだと思います(これは学会発表でも同じことです)。ただ、当然のことながら英語が母国語ではない我々にとっては洗練された英文を書くというのは本当に難しいと改めて実感しました。日本人研究者全員が持つ大きなディスアドバンテージだと思います。 冒頭でも書きましたが、私が留学して8ヶ月くらいたった頃、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)が中国で報告されました。そして、それが比較的高い致死率を有するウイルスだという認識が広まり、2020年3月13日にトランプ大統領が非常事態宣言を出すに至りました。その後は急速に多くの規制が始まりました。NIHでは準シャットダウン(COVID-19に関わる研究以外の全ての研究は中止)になり、いきなり行っていたプロジェクトを中断せざるを得なくなりました。また、多くの研究室の出入り口が封鎖され(写真4)、限られた出入り口のみとなり、症状のスクリーニングを行ってからでしか入室できなくなってしまいました。自宅に帰っても、基本的には外出禁止、もちろん学校(オンライン授業に変更)、博物館、動物園なども全て閉鎖、という異常な事態になりました。コストコやジャイアントといった食料品スーパーでは買い占めが起こるなど、得体の知れないウイルスの出現に、マスコミやインターネットでは嘘か真かもわからないような情報が出回り、研究が全くできなくなってしまったことも重なって異国の地で心が折れそうでした。 しかし、1年弱という驚くべきスピードでmRNAワクチンが開発され、認可されたのはご存知のとおりだと思います。米国民のワクチン接種率が広がるに連れ、段々と日常生活が戻ってきました。研究面でもほとんど通常の研究ができるようになったのもこの頃です。ワクチンを打っていれば重症化することはない、という信念のもと積極的に元の生活に戻そうという政府や国民の意思を感じました。抗原検査キットが大量に配布され(写真5)、たとえ感染しても病院には行かずに自宅待機する人がほとんどで、病床を圧迫することもなくなりました。小学校や中学校でコロナ陽性が出ても追跡調査は行われなくなり、濃厚接触者もなんの制限もなく行動できるよう180COVID-19の世界的大流行

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