臨床薬理の進歩 No.44
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*1 HOSOYA TADASHI *2 BABA HIROYUKI *3 KONDO YUMA *4 YASUDA SHINSUKE はじめに要   旨 炎症性疾患や自己免疫疾患では、全身または局所で多彩な免疫細胞、サイトカイン・ケモカインを含む炎症メディエーターが相互に作用し、疾患毎に複雑な病態ネットワークを形成しているが、その炎症メカニズムの解明も急速に進んでいる。関節リウマチにおける、TNFα阻害薬、IL-6受容体阻害薬、JAK阻害薬のように、病態の原因となるターゲット分子に特異的に作用する治療薬が登場したが、これらの薬剤によりmode-of-actionを意識した治療が可能となってきた。 Nuclear factor-κB(NF-κB)は炎症性疾患や自己免疫疾患において、炎症応答の中心的な役割を果たす目的 High-throughput screeningで見出したNF-κB抑制性化合物のリード化合物(INH #1、INH #3)とその誘導体を合成し、炎症性モデルマウスを用いた生体内での抗炎症作用を検証と、グルココルチコイド(GC)との相乗作用をもたらすメカニズムを解析する。方法 リード化合物から複数の誘導体を合成した。関節リウマチ滑膜線維芽細胞(RA-FLS)、単球性白血病細胞(THP-1)を用いて刺激後のサイトカインの産生抑制、GCとの相乗作用を確認した。炎症性モデルマウスとしてはLipopolysaccharide(LPS)投与後のTNFα産生、コラーゲン誘導関節炎(CIA)に対するINH #1の効果を評価した。結果 1824種類の誘導体を検討したが、INH #1、INH #3共にサイトカイン産生抑制はリード化合物が最も優れていた。INH #1はGCの相乗作用も示した。モデルマウスも、INH #1がTNFα産生、関節炎とも抑制した。結論 INH #1誘導体は、新規の抗炎症作用を持つ化合物の候補となる。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 膠原病・リウマチ内科学             同   上東京医科歯科大学 医学部医学科東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 膠原病・リウマチ内科学転写因子である。これまでNF-κBを阻害する薬剤の創出が試みられてきたが、神経障害の出現やNF-κBがIL-1βのnegative regulatorであることなどから、その直接的合阻害薬は臨床応用には至らなかった1,2)。その一方で、炎症性疾患の治療に用いられるグルココルチコイド(GC)や従来の免疫抑制薬の一部は、効率的にNF-κBを抑制することで抗炎症作用を発揮するため、疾患の急性期治療に欠かせず、依然としてリウマチ性疾患の治療における中心的存在で有り続けている。しかし、GCステロイド受容体を介したmetabolic effectも有しており、長期に投与することで心血管疾患、骨粗鬆症、筋萎縮などの有害事象を引き起こすことが問題になっている3)。これらのGCの長期使用に伴う有害事象の予防は、Key words:創薬、High-throughput screening、NF-κB、グルココルチコイド、炎症性モデルマウス11炎症性疾患の発症・再燃を予防する新規薬剤の開発Novel drug identification and development for aiming inflammatory disease onset and relapse細矢 匡*1 馬場 洋行*2 近藤 祐真*3 保田 晋助*4

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