臨床薬理の進歩 No.44
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利益相反(COI)謝  辞関節炎のピーク時にIgG2aまたはIgG2bが上昇する。また、CIAではCⅡ特異的にT細胞が活性化し、INF-γを誘導することが知られている。我々の検討では、INH #1はCⅡで誘導される細胞活性を抑制し、INF-γの産生も抑制したが、IgG2a産生を抑制しなかった。更に、CIAではTNFα阻害により、組織学的にも、炎症細胞浸潤と軟骨破壊が抑制されることが知られているが、INH #1高用量投与群では炎症細胞浸潤、滑膜肥厚によってスコア化される重症度は改善した。以上より、INH #1は炎症モデルマウスで、細胞性免疫の抑制とTNFαの産生抑制を介して抗炎症作用を示していることが推測される。 INH #1の有効性は示されたが、その抗炎症のメカニズムは不明である。HPSで見出した化合物は、生理的なNF-κB活性を残しながら、炎症によって惹起されるNF-κB活性の抑制効果をもつ化合物であると期待される。したがって、TLRにリガンドが結合して活性化されるNF-κB活性化経路のうち、IκBα、IRAK-M、A20などの抑制性蛋白を誘導している可能性がある。 IκBαは多くの細胞で、NF-κBの核内移行を抑制する蛋白であり、NF-κB活性化を抑制している。TLRにリガンドが結合すると、IKK複合体が活性化され、IκBαが分解される。しかし、今回我々が行ったTHP-1での検討では、INH #1はLPS刺激に対して、IκBαには保護的に働かなかった。次にIRAK-Mは単球/マクロファージに最も多く発現し、TLRシグナルと自然免疫応答の負の調節因子として機能する分子である。気道上皮細胞ではDEXにより誘導され、NF-κB産生に対して抑制的に働いている8)。今回の我々の検討では、INH #1によってもIRAK-Mは誘導された。A20も同様のNF-κBを活性化する直鎖ユビキチンを脱ユビキチン化することで、NF-κB活性を抑制する蛋白である。両者は生理的にはnegative feedbackによってNF-κB活性化を終息させる機能を有する。我々のTHP-1を用いた検討では、INH #1はA20を誘導しており、INH #1はTHP-1においてはIRAK-MやA20/TNFAIP3の発現を亢進させるメカニズムを通じてNF-κBに対して抑制的に作用する可能性がある。 近年、リウマチ性疾患に対する治療ガイドラインが急速に整備されている。特にGCの使用適正化は多くの疾患でそれぞれ試みられており、GCを代替するような新規薬剤の開発も盛んに行われている。一例として、GCの作用である2量体化GC/GC受容体複合体による転写活性能を有さず、他の炎症惹起性転写因子との競合的な転写抑制能のみを示す化合物(SEGRAM)の開発が2000年代前半から行われている9,10)。近年、臨床試験も実施され、関節リウマチ対する臨床試験の有望な結果が2019年に報告された11)。 これまでの検討で、INH #1はin vivoでも抗炎症作用を示すことを確認した。また、in vitroではGCとの相乗効果が期待される。今後、本化合物の作用メカニズムを解明することで、炎症性疾患に対する新規治療薬としての可能性を追求していきたい。 本研究は臨床薬理研究振興財団の第40回海外留学助成金をうけ、留学したCarson Labでの検討が端緒となり、第45回研究奨励金を基に研究を進めることができた。研究資金を助成していただいた臨床薬理研究振興財団に感謝する。また、誘導体は東京医科歯科大学生体材料工学研究所 薬化学分野 影近弘之、初澤早紀、石田良典、東京医科歯科大学生体材料工学研究所 生命有機化学分野 細谷孝充、坂田優希の先生方に合成していただいた。本研究の解析に協力していただいたすべての研究者、学生、技術補佐員に感謝する。 申告すべき利益相反はない。21

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