臨床薬理の進歩 No.44
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*1 MATSUMOTO YOTARO はじめに要   旨 修飾ヌクレオシド(修飾核酸)は、RNAを構成するアデニン、グアニン、シトシン、ウラシルの基本的な核酸に対し、メチル化やアセチル化、チオ化など様々な転写後修飾が加わることで生じる。修飾を受けない核酸は再利用されるが、RNA上で発現した修飾核酸は代謝によりモノヌクレオシド化され、再利用されず血中や尿中へと放出される1)。8割以上の修飾核酸が存在するとされる tRNAをはじめ、mRNAやrRNA、miRNAにおいても見出されており、140種類を超える修飾核酸2)が報告されている(http://modomics.genesilico.pl/)。修飾核酸はRNAの構造、輸送、安定性、スプライシングなど、様々なRNA機能調節に関与することが徐々目的 修飾核酸はRNAに転写後修飾が加えられて生じるもので、疾患や生体機能に密接な関連があることから、様々な疾患でバイオマーカーとなりうる。故に、生体内の修飾核酸の量的変動を正確に捉えることは、臨床上有用な情報を与えると考えられる。本研究では、LC-MS/MSを用いた修飾核酸の精密な一斉定量系の開発と、本系を肺がん患者検体へ適用し、がん診断法としての有用性を検討した。方法・結果・考察 入手困難な修飾核酸標品、および安定同位体について有機合成を行った。これらの化合物を用いて19種の血漿中修飾核酸一斉定量系を確立した。本法を肺がん患者血漿検体に適用したところ、患者群と健康成人群を区別できる肺がんバイオマーカー候補を発見した。変数増減法によって修飾核酸を選定し、ロジスティック回帰分析による肺がん診断法を検討した結果、既存のがんマーカーと比べて遜色がなく、新たな診断法としての可能性が示された。東北大学大学院薬学研究科に明らかにされつつある一方で、疾患メカニズムの一端を担う分子であることが指摘されている。例えば、がんにおいてtRNAのターンオーバーが亢進することや、がん患者の尿中修飾核酸量ががんの進行度に応じて変動することが示されている。他にも、固形がん・血液がんの診断マーカー、あるいは酸化ストレス・アルキル化ストレスが関連する疾患のマーカー候補として現在までに報告されている3〜6)(図1)。このように修飾核酸は身体の状況を反映し、種々の疾患と関連することが示唆されており、修飾核酸の包括的な分析は診断や鑑別、バイオマーカーの開発に有用な手段となると期待されている。 修飾核酸の定量手法としては、その優れた汎用性・選択性の点から液体クロマトグラフィータンデムKey words:修飾核酸、LC-MS/MS、一斉定量、安定同位体、バイオマーカー23松本 洋太郎*1網羅的修飾核酸測定法の開発とがん精密診断への応用Development of comprehensive modified nucleoside analysis method andits application to cancer diagnosis

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