*1 ARAI MAKOTO *2 TAKEUCHI YASUHIRO 国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 内分泌センター*3 ARASE YASUJI *4 SUGIYAMA HIROSHI はじめに要 旨 骨粗鬆症とは「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である」と定義されており1)、わが国でも骨密度測定値を取り入れた診断基準が策定されている。近年、骨粗鬆症の患者数および有病率は、高齢化の進行とともに増加の一途をたどっており、わが国における骨粗鬆症患者数は約1,300万人と推定されている2,3)。 骨粗鬆症で最も問題となるのは骨折である。脆弱性骨折の代表である大腿骨近位部骨折のわが国における年間発生数は約18万件であり、その数は 超高齢化社会を迎えたわが国では骨粗鬆症は増加の一途をたどっている。骨粗鬆症で最も問題となるのは骨折であり、それを予防するために骨粗鬆症治療薬が開発されているが、それでも骨折発生数を抑えているとは言い難いのが現状である。そこで本研究では全身の代謝ネットワークの一部として近年様々な病態への関与が指摘されている腸内細菌叢の関与を考えた。これを明らかにするために本研究では股関節の手術を受ける患者を対象に、骨密度や血清マーカーなどの臨床情報と、便検体を用いて同定した腸内細菌叢を照らし合わせ、骨代謝との関連を探索した。対象者の便検体からゲノムDNAを抽出し、細菌の16S rRNAのvariable region 1-2領域を増幅し、ライブラリーを作成してシーケンスによって菌種を同定した。これによりそれぞれの対象者の便中で各菌種が占める割合を知ることができた。これらの対象者は骨密度や血液検査といった臨床検査の情報、既往歴や薬剤歴といった背景を有している。食事に関しても骨代謝に関係の強いビタミンやミネラルを中心に聴取済である。今後は腸内細菌叢のプロファイルを各種の臨床情報と照らし合わせることで骨代謝への寄与の大きい菌種を絞り込み、さらに食事の情報と照合することで、食生活への介入による骨粗鬆症の治療や予防に役立てたい。東京大学 先端科学技術研究センター 代謝医学分野(元:東北大学 大学院医学系研究科 分子代謝生理学分野)国家公務員共済組合連合会 虎の門病院付属健康管理センター・画像診断センター総合病院 国保旭中央病院 整形外科年々増加している4)。さらに、骨折はそれによって移動を含めた生活全般の機能が低下するだけでなく、生命予後にも悪影響を及ぼしていることが明らかになっている5)。 こうした社会的要請に応えるべく、骨代謝の研究が進み各種の骨粗鬆症治療薬が開発されているが、それでもなお高齢化の進行とともに増加する骨粗鬆症患者数や骨折発生数を抑えているとは言い難いのが現状である。そこで骨代謝研究に新たなアプローチを取り込むには、一度骨の立ち位置を振り返る必要がある。従来骨は重力に抗するだけの支持的かつ静的な組織としてしか捉えられていなかったが、今や、絶えずリモデリングを続け、また他臓器Key words:骨粗鬆症、骨折、腸内細菌叢、骨密度、食事31荒井 誠*1 竹内 靖博*2 荒瀬 康司*3 杉山 宏*4腸内細菌叢を標的とした骨折予防戦略の構築Preventive measures against fractures targeting gut microbiota
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