臨床薬理の進歩 No.44
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表1 用いたプライマー配列大文字:アダプター配列。小文字:当該領域の増幅のために必要な相補的な配列。*印:マルチプレックスのためのインデックス配列。対象と方法との相互作用も有する動的な臓器であると認識されている6)。このように骨組織を全身の代謝ネットワークの一部と捉えたときに、同じくそのネットワークの一部として近年注目を浴びている腸内細菌叢が骨代謝と関連しているのではないかと我々は着想した。 ヒトの腸内には数百種類、細胞数にしての数百兆細胞もの常在菌がいるとされ、腸はヒトの体で最も多く常在菌が存在する部位である。この腸内細菌叢は複雑な生態系であるが、その構成菌種やそれらがコードする遺伝子を網羅的に調べるメタゲノム解析が2006年に開発され7)、さらに近年の次世代シーケンサーの実用化と相まって、研究が急速に進んでいる。その結果、腸内細菌叢はホストの代謝や免疫系に大きく関与することや8)、腸内細菌叢の破綻(dysbiosis)が、種々の自己免疫性疾患・肥満や糖尿病などの代謝性疾患・癌・心疾患・神経精神疾患など全身諸臓器の疾患に結びつくことが明らかとなってきた9)。 骨粗鬆症および腸内細菌叢を取り巻くこうした背景を基に、我々は腸内細菌叢が全身の代謝ネットワークを介して骨代謝に関与しているのではないかとの仮説を立てた。この関連を明らかにすることで、骨恒常性維持機構の詳細がより明らかになり、腸内細菌叢を標的とした科学的合理性に基づく新規の治療法開発の糸口がつかめるものと期待される。 そこで本研究では、股関節の手術を受ける患者を対象に、骨密度や血清マーカーなどの臨床情報と、便検体を用いて同定した腸内細菌叢を照らし合わせ、骨代謝との関連を探索することを目的とした。ForwardReverse5'-CCATCTCATCCCTGCGTGTCTCCGACTCAG*************                       agrgtttgatymtggctcag-3'5'-CCTCTCTATGGGCAGTCGGTGATtgctgcctcccgtaggagt-3' また、本研究では従来のリスク評価では考慮されていないものの、日々の生活の一部であるが故に生理・病理への影響も大きいであろう「食」にも注目した。食事および食事内容によって変動する腸内細菌叢も考慮に入れることで、より正確な骨折リスク評価が可能となり、個々人により即した食事療法の提案が可能となることを期待して、本研究を行った。 総合病院 国保旭中央病院(千葉県旭市)において大腿骨近位部骨折や変形性股関節症などのために人工骨頭置換術もしくは人工股関節置換術を受ける40歳以上の女性患者を対象とした。また、除外基準として、30日以内に治験薬を使用した、もしくは、今回手術を行う側と対側の大腿骨近位部の手術歴がある患者は対象から除外した。 なお、本研究は東北大学および旭中央病院における倫理審査委員会の承認を得た上で、患者・家族に十分な説明を行い、研究参加への同意が得られた患者のみを研究対象としている。(2020年7月27日倫理審査委員会承認、承認番号2020-1-391) 対象患者から便検体を採取し、その便検体からゲノムDNAを抽出した。そして表1に示すプライマーを用いて細菌の16S rRNAのvariable region(V)のうち、V1-V2領域を増幅した。なお、表1の配列のうち小文字で記した部分が当該領域の増幅のために必要な相補的な配列である。この配列は27Fmod-454A、338R-454Bとして報告されている10)。また、表1の配列のうち大文字で記した部分32

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