臨床薬理の進歩 No.44
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*1 HITOMI YUKI *2 KAWAI YOSUKE *3 UETA MAYUMI *4 TOKUNAGA KATSUSHI 国立国際医療研究センター研究所ゲノム医科学プロジェクトはじめに要   旨 スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)やその発展型である中毒性表皮壊死症(TEN)などの重症薬疹は、薬剤摂取等を契機に生ずる皮膚や粘膜の重篤な病変を特徴とし、高熱や全身倦怠感などの症状を伴う劇症型の疾患である1)。特にTENにおいては、その死亡率が30%にも達するうえ、多くの症例において視力障害などの重篤な後遺症が残る2,3)。重症薬疹の原因薬物として、ラモトリギン・カルバマゼピン・アロプリノールなどが報告されているが、市販の感冒薬における有効成分であるロキソプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬もまた、その原因となる。これまでの研究により、重症薬疹の発症にはFas-FasL相互作用によるアポトーシス・グラニュライシンの関与・感染に目的 重症薬疹は、薬剤などを契機に生ずる重篤な病変を特徴とする疾患であり、発症メカニズムは不明である。本研究では、発症に寄与する遺伝要因を網羅的に探索するとともに、発症機序の解明を目指した。方法 感冒薬関連重症薬疹症例133例および健康成人418例を対象とした全ゲノムシークエンス解析にて得られたバリアント情報を用いて、症例対照関連解析およびrare variant集積遺伝子探索を行った。さらに、疾患感受性バリアントに対するin silico解析および遺伝子機能解析を行った。結果 疾患感受性遺伝子HLA-AおよびBRD7を同定するとともに、重症薬疹症例のゲノムDNAにおけるTRPM8 rare variantの集積を見出した。また、これらの疾患感受性遺伝子に起因する発症機序を解明した。結論 全ゲノムシークエンス解析を起点とする解析により、新規重症薬疹感受性遺伝子が同定された。国立国際医療研究センター研究所疾患ゲノム研究部(元:星薬科大学薬学部微生物学研究室)国立国際医療研究センター研究所ゲノム医科学プロジェクト京都府立医科大学大学院医学研究科感覚器未来医療学よる制御性T細胞の機能低下などの関与が示唆される一方で、発症メカニズムは不明なままであったことから、発症や重症化阻止のための発症予測法や治療法の開発が急務である。 これまでの研究により、重症薬疹の発症には遺伝要因の寄与が強いことが明らかとなっている。特に、ヒト白血球抗原遺伝子(Human Leukocyte Antigen; HLA)との強い関連が複数の論文より報告されており、極端な例を挙げれば台湾人のカルバマゼピン関連重症薬疹では患者群全例がHLA-B*15:02を保有する4)。さらに、疾患感受性(疾患への罹りやすさ)に関連するバリアント(ヒトゲノムにおけるDNA配列の多様性)を全ゲノムにわたり網羅的に探索する遺伝統計学的手法であるゲノムワイド関連解析(GWAS)を利用して、様々な疾患における疾患感受性遺伝子が続々と同定されていKey words:重症薬疹、疾患感受性遺伝子、次世代シークエンサー、全ゲノムシークエンス解析、ゲノム編集36人見 祐基*1  河合 洋介*2 上田 真由美*3 徳永 勝士*4重症薬疹の全ゲノムDNA解析情報を活用した発症機序の解明Elucidation of the pathogenic mechanism of severe drug eruption usingwhole-genome DNA analysis information

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