臨床薬理の進歩 No.44
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対象方法るが、我々の研究グループにおいても感冒薬関連重症薬疹を対象とするGWASを世界で最初に実施し、疾患感受性遺伝子HLA-Aの同定に成功していた5)。 しかしながら、他の薬物を原因とする重症薬疹と比較し、感冒薬関連重症薬疹では疾患感受性遺伝子の寄与はさほど強いとは言えないことや(オッズ比:2〜5程度)、一般集団中での保有者が極めて稀である「rare variant」はGWASでは検出できないことから、感冒薬関連重症薬疹においては未解明な遺伝要因が残されていると考えられる。さらに、網羅的な全ゲノムDNA解析によって得られた成果を、発症メカニズムの解明や、個々の遺伝的背景を元に最適な医療を選択する「個別化医療」へと展開するためには、重症薬疹との関連を示すバリアントに起因する発症メカニズムの解明も継続して実施する必要がある。 そこで本研究では、次世代シークエンサーを利用し、感冒薬関連重症薬疹症例の全ゲノムDNA配列(約30億塩基対)をすべて解読する「全ゲノムシークエンス解析」を実施することによって、GWASから取りこぼされた可能性のある遺伝要因の探索を試みた。さらに、得られたバリアントに起因する機能的な影響をin silico解析およびゲノム編集を活用した遺伝子機能解析を駆使して検証した。対象 患者群として、京都府立医科大学病院を中心に収集された、視力障害などの眼症状のある日本人感冒薬関連重症薬疹症例133例を用いた(年齢:41.5 ± 17.1 歳、発症年齢:24.6 ± 16.2歳)。症例の選定基準として、高熱・重篤な皮膚および粘膜症状(眼および他の部位)を示し、特に角膜表面に偽膜形成が見られたもの、さらには、発症の数日前に感冒薬を服薬したものとした。健常対照群として、東京大学を中心に収集された、これまでに重症薬疹を発症したことのない日本人健康成人418例を用いた。 本研究は、星薬科大学・京都府立医科大学・国立国際医療研究センターにおいて研究倫理委員会の承認を得ている。また、ヘルシンキ宣言に則り、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」および「人を対象とする医学研究に関する倫理指針」を遵守して行った。なお、本研究への症例登録に際しては、被験者に対し、口頭および書面を用いた説明と共に、書面による同意を得ている。全ゲノムシークエンス解析を利用した症例対照関連解析 患者群および健常対照群より得られたゲノムDNA検体は、全検体が品質チェック(遺伝的均質性・各サンプルの遺伝子型タイピング精度など)における合格水準を満たしている。 これらのDNA検体を対象に、TruSeq® DNA PCR-Free Sample Prep Kit(Illumina社製)を利用したライブラリ作成の後、HiseqX(Illumina社製)を稼動して、個々の症例における全ゲノムシークエンス情報(FASTQファイル)を得た。 さらに、基準となるヒトゲノム配列(hg19)にシークエンス情報をマッピングし、比較することで、各症例のDNAにおけるバリアント情報を得た(VCFファイル)。in silico解析を用いた疾患感受性バリアントの機能的検証 上記解析にて得られた疾患感受性遺伝子のバリアントに対し、GTEx portal database(https://gtexportal.org/home/)を用いて、各バリアントの遺伝子型とヒトゲノム中の全遺伝子の発現量との相関を網羅的に解析する発現量的形質遺伝子座(e-QTL)解析を実施した。 さらに、エクソン内に存在する非同義置換の疾患感受性バリアントによるタンパク産物への影響をPolyphen2(http://genetics.bwh.harvard.edu/pph2/)、SIFT(https://sift.bii.a-star.edu.sg/)、CADD(https://cadd.gs.washington.edu/)にて検証した。37

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