臨床薬理の進歩 No.44
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*1 HORI MIKA はじめに要   旨 常染色体潜性(劣性)遺伝性高コレステロール血症(Autosomal recessive hypercholesterolemia (ARH))は発症頻度が1000万人に1人と極めて稀な疾患であり、臨床的には常染色体顕性(優性)遺伝性家族性高コレステロール血症ホモ接合体 (homozygous familial hypercholesterolemia:ホモFH)の類似疾患であるが、LDL受容体(LDLR)機能は正常である。ARHは、LDLRの細胞内取り込みに関与するLDL receptor adaptor protein 1(LDLRAP1)蛋白質の遺伝的な機能欠損が原因であるが、LDLRAP1の機能は未解明である。ホモFHは、遺伝的にLDLRの機能が欠損するため、目的 常染色体潜性(劣性)遺伝性高コレステロール血症(ホモARH)や常染色体顕性(優性)遺伝性家族性高コレステロール血症ホモ接合体 (ホモFH)由来iPS細胞から作製した肝細胞を用いた病態モデルの構築及び病態機序の解明を目的とする。方法 各患者からiPS細胞を樹立し、肝細胞分化誘導及び機能評価を行った。結果 ホモARH患者由来iPS細胞から作製した肝細胞では、LDLRAP1の発現は欠損し、ヘテロ ARH患者由来iPS細胞から作製した肝細胞に比較し、LDLの取り込みは低下した。ヘテロ及びホモFH患者由来iPS細胞から作製した肝細胞におけるLDLの取り込みは健常人由来iPS細胞から作製した肝細胞に比較して低下したが、ホモFHとヘテロFH患者由来iPS細胞から作製した肝細胞において差は認められなかった。結論 ホモARH及びホモFH患者由来iPS細胞から肝細胞を作製することで病態再現及び病態機序解析が可能であった。東海国立大学機構 名古屋大学 環境医学研究所 内分泌代謝分野幼少期より著明な高LDL-コレステロール血症を呈し、未治療であれば心筋梗塞発症のため30歳まで生存できない難病である。ホモARH及びホモFHでは小児期からの積極的治療介入が推奨され、LDLアフェレシス治療が最も効果的であるが、体外循環体積の問題から10歳未満には適用できない。このため治療開始年齢には動脈硬化が既に進行していることが問題であり、小児期から安全に適応可能なホモARH及びホモFHに対する新しい治療法の実現が強く望まれる。 FHの原因遺伝子として、LDLR遺伝子に加え、LDLRのリガンドであるAPOB遺伝子、LDLRの分解に関するPCSK9遺伝子が報告されている。近年、本邦ではLDLR遺伝子変異にPCSK9遺伝子Key words:常染色体潜性(劣性)遺伝性高コレステロール血症、常染色体顕性(優性)遺伝性家族性高コレステロール血症ホモ接合体、iPS細胞、肝細胞、LDL代謝45堀 美香*1 遺伝性高コレステロール血症患者由来iPS細胞を用いた病態再現の試みReproducing pathophysiology using iPS cells derived from patients with autosomal recessive or dominant hypercholesterolemia

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