臨床薬理の進歩 No.44
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*1 TAJIMA SOICHIRO *2 HIROTA TAKESHI *3 IEIRI ICHIRO はじめに要   旨 末期腎不全の治療として行われる腎移植は、透析療法のような時間的拘束が少なく日常生活のQOLも高い治療法である。また移植手術技術の向上、免疫抑制薬の開発により、生体腎移植、献腎移植いずれにおいても、生存率・生着率は年代とともに上昇している。生体腎移植では、1983〜2000年の5年生存率93.6%、10年生存率88.9%であったが、2010〜2019年にはそれぞれ96.7%、91.0%に上昇している。献腎移植においても同様に1983〜2000年の86.0%、79.0%が、2010〜2019年ではそれぞれ92.9%、82.9%に上昇している。また生着率に関しては、生体腎移植では1983〜2000年の5年生着率目的 腎移植患者における移植腎のモニタリングは、計画的な腎生検により定期的に病理診断が行われている。Subclinical rejectionは、計画的な腎生検によって診断が確定するため、その発症や進行を予測する非侵襲的なバイオマーカーの開発が喫緊の課題である。尿中に分泌されるエクソソームは、腎組織を主に由来とすることから、内包されるマイクロRNA(miRNA)はsubclinical rejectionの進行を捉えるバイオマーカーとして期待される。方法 腎移植患者の尿中エクソソーム内miRNAについて、miRNA array解析を行いバイオマーカーの探索を行った。結果 miRNA array解析の結果、3種類のmiRNAがsubclinical rejectionの患者に特徴的な発現を示した。さらに、腎移植患者56名の尿中エクソソーム内miRNAを解析した結果、1種類のmiRNAがsubclinical rejectionの診断予測マーカーとなる可能性が示唆された。結論 本研究は、腎移植患者における移植腎の非侵襲的なモニタリングやsubclinical rejection診断予測の実現に寄与する可能性がある。九州大学病院薬剤部  同   上  同   上81.9%、10年生着率69.0%であったが、2010〜2019年にはそれぞれ93.1%、80.8%に上昇している。献腎移植においても同様に1983〜2000年の64.8%、51.9%が、2010〜2019年ではそれぞれ87.9%、74.5%と上昇している1)。移植腎の廃絶原因の一つに慢性拒絶反応があるが、Banff分類2,3)では細胞性免疫機序によるT細胞関連型拒絶反応(T cell mediated rejection:TCMR)と体液性免疫機序による抗体関連拒絶反応(antibody mediated rejection:ABMR)の2種類に分類される。TCMRは、移植後数カ月で確認されることが多く、一方ABMRは移植後1年以上経過して確認されることが報告されている4,5)。これらの拒絶反応に対する早期診断と治療は移植腎の予後改善に寄与すると考えられる。Key words:エクソソーム、マイクロRNA、バイオマーカー、腎移植、subclinical rejection54田島 壮一郎*1 廣田 豪*2 家入 一郎*3腎移植患者におけるsubclinical rejectionを検出する非侵襲的なバイオマーカーの開発Development of non-invasive biomarkers for detection of subclinical rejection in kidney transplant patients

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