臨床薬理の進歩 No.44
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− An interim analysis results of a family-based prospective cohort study on women with*1 HASHIMOTO TASUKU 千葉大学大学院医学研究院 精神医学、国際医療福祉大学医学部 精神医学教室*2 OGAWA MICHI *3 TANAKA MAMI はじめに要   旨 精神疾患を有する女性が妊娠する機会は多い。とくに再発防止のため継続的な薬物治療を必要とする統合失調症や双極性障害においては、妊娠中の服薬中止により再発率を高める。そのため、統合失調症・双極性障害を有する妊婦や妊娠可能年齢の女性には、催奇形性リスクの低い治療薬が求められる。精神科領域で催奇形性の高い薬剤には、バルプロ酸(神経管閉鎖障害、IQ低下など)1)、リチウム(先天性心疾患)がある2)。筆者らが全国の精神科医に実施したアンケート調査結果に目的 妊娠中の精神科薬物療法において、とくに再発防止のため継続的な薬物治療を必要とする統合失調症や双極性障害においては抗精神病薬が重要な役割を果たすが、胎児への安全性を懸念して服薬を中断する例は少なくない。本研究は筆者が代表となって実施している周産期メンタルヘルス前向きコホート研究(FOWPs study)の中間データを用いて、とくに産科的転帰および新生児の転帰と妊娠中の抗精神病薬服用の関連について検討行った。方法 FOWPs studyに参加している統合失調症を含めた精神病性障害および双極性障害の妊産婦および児と健常成人群を対照群として、産科的・新生児評価を行った。結果 抗精神病薬の服用継続群では妊娠糖尿病および新生児不適応症候群が有意に多かった。また抗精神病薬の用量が高いほど新生児不適応症候群発症リスクを増加させることが示された。結論 抗精神病薬と妊娠糖尿病、新生児不適応症候群のリスクが示唆された。千葉大学大学院医学研究院 精神医学千葉大学社会精神保健教育研究センター 非行臨床研究部門おいても、双極性障害の妊婦にバルプロ酸やリチウムを「時々〜しばしば処方する」と回答した者は約11%に留まっていた3)。 一方、同調査では、半数以上の精神科医が双極性障害の妊婦に、抗精神病薬もほとんど処方しないと回答していた。筆者らが作成委員であった周産期メンタルヘルス コンセンサスガイド2017 4)や、日本精神神経学会・日本産科婦人科学会合同の診療ガイド5)には、妊娠期の統合失調症・双極性障害の治療薬として抗精神病薬の使用が推奨されている。しかし、抗精神病薬の周産期の母児の安全性については、研究報告間でも一致していない。Key words:抗精神病薬、統合失調症、双極性障害、妊娠糖尿病、新生児不適応症候群60橋本 佐*1 小川 道*2 田中 麻未*3妊娠期の抗精神病薬治療に関する母児の安全性評価−心理・社会的困難を有する妊娠女性とその児および家族に関する前向き観察研究(FOWPs study)の中間解析結果よりAssessments of maternal and infant safety outcomes regarding the use of antipsychotics in pregnancypsychosocial problems in the perinatal period (FOWPs study)

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