臨床薬理の進歩 No.44
75/235

対象と方法 先行研究の多くはレセプトデータ等を用いた数万人以上の大規模研究であるが、患者個々の診断など精神医学的評価が直接されていない、服用状況に関する情報の欠如など、母児の安全性評価に必要な質の高いエビデンスが不足している。こうした限界を克服したエビデンスを創出するため、われわれは「心理・社会的困難を有する妊娠女性とその児および家族に関する前向き観察研究:A Family-based prospective cohort study On Women with Psychosocial Problems in the Perinatal Period (FOWPs study)」、という妊娠期から産後3年まで追跡する長期間の調査を2018年から2022年10月現在でも継続して行っている。 本研究は、とくに統合失調症を中心とした精神病性障害および双極性障害における妊娠期の抗精神病薬治療に焦点を当て、健常成人妊婦を比較対照として、妊娠期から産後1か月まで母児の安全性評価を目的とした。なおFOWPs studyは現在も継続中のため、本研究では、2021年9月30日時点で産後1か月を経過した症例データを用いた中間解析結果として報告している。また、催奇形性評価については、FOWPs studyが現在も継続中であることから本研究での評価項目からは除外し、胎児発育不全や新生児仮死の指標であるアプガースコアなどを主な評価項目とした。倫理 研究実施施設:千葉大学大学院医学研究院(ID:3077)、総合病院国保旭中央病院(ID:2019071605)、国際医療福祉大学(ID:20-Nr-053)における各倫理審査委員会の承認を得て、ヘルシンキ宣言に従って実施している。すべての研究参加者より、研究参加前に書面によるインフォームドコンセントを得ている。研究デザイン 本研究は前向き観察研究であり、本研究のために治療方法や検査等による介入は行わず、研究対象者について通常診療の記録を用いて前向きに調査するものである。すべての治療は、通常診療として担当医の判断および研究対象者の希望に基づき研究対象者ごとに選択される。FOWPs studyは、心理・社会的困難を抱えた妊産婦、特に精神疾患をもった妊娠女性、その妊婦から出生した児、その夫・パートナーを対象としている。対照群として研究参加時に心身健康な健常成人妊婦とその児、夫・パートナーを対象としている。研究対象者 FOWPs studyの選択基準は、千葉大学医学部附属病院および総合病院国保旭中央病院、国際医療福祉大学成田病院の産科、かつ妊娠中に同院精神科を受診した女性と同院産科にて出生した児である。除外基準は、担当医により本研究への参加不適当と判断されたものである。 本研究では、DSM-5の診断基準に基づく統合失調症をはじめとした精神病性障害および双極性障害(疾患群)とした。健常成人群は参加時に身体疾患がなく医療機関で加療されておらず、かつ、精神科診断フォームであるMini-International Neuropsychiatric Interview (M.I.N.I.)で精神疾患を除外されたものとした。評価項目 疾患群における服薬状況は、妊娠期、妊娠26週以降、分娩時の3時点で評価した。産科的評価として、妊娠糖尿病・早産・胎児発育不全・妊娠高血圧症候群、新生児評価としては、新生児低体重・アプガースコア1分と5分・新生児不適応症候群・新生児黄疸・低血糖・胎便吸引症候群とした。新生児不適応症候群とは、児における出生直後の薬物離脱症候群だけでなく鎮静など直接的な作用を含めており、振戦やけいれん、無呼吸発作や傾眠、フラッピーインファントなどを総称したものである6)。 疾患群における様々な抗精神病薬の服用量を定量的に評価するため、クロルプロマジン換算(CP61

元のページ  ../index.html#75

このブックを見る