臨床薬理の進歩 No.44
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*1 MUTO JUN *2 MINE YUTAKA *3 HIROSE YUICHI はじめに要   旨 脳腫瘍は腫瘍組織と正常脳組織との境界が不明瞭なことがしばしばある。悪性脳腫瘍は外科手術により可能な限り摘出し、化学療法、放射線療法を行うことにより、生命予後を延長することが示されている。摘出すればするほど生命予後(overall survival)は延長するが、手術による正常部分の損傷で機能障害をきたす可能性が高くなる。患者の生命予後と機能予後の両者を高めるため、脳腫瘍と正常組織を術中に判別し得る新しい手技や技術の開発は急務である。 近年ジアグノグリーンⓇ(Indocyanine green、以下目的 インドシアニングリーン(ICG)による脳脊髄腫瘍に対する術中蛍光診断法を確立をする。方法 手術24時間前に5.0 mg/kgを静脈内投与し、腫瘍に残存するICGを近赤線照射下で観察するSecond window ICG technique(SWIG)を転移性脳腫瘍10例に行った。SWIGを簡略化し、観察1時間前に0.5 mg/kgを投与するDelayed window ICG technique(DWIG)に改良し、髄膜腫15例と、脊髄神経鞘腫7例に行った。結果 転移性脳腫瘍はSWIGで正常脳実質よりも平均3.4±1.8倍の蛍光を確認した。また、DWIGでは、髄膜腫3.3±2.6倍、脊髄神経鞘腫3.7±0.1 倍と腫瘍蛍光発光効果を確認した。その感度は髄膜腫に対して、感度94%、特異度38%を示した。さらには腫瘍の蛍光発光は、MRI T1強調画像のガドリニウム増強腫瘍信号にて予測可能であった。ICGが貯留する機構として、血液脳関門の透過性が、MRIのGd増強、ICGの保持、近赤外線による腫瘍蛍光に寄与する可能性を示した。結論 腫瘍型に応じたICG術中蛍光造影法を、転移性脳腫瘍、髄膜腫、脊髄神経鞘腫について確立した。藤田医科大学 脳神経外科独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 脳神経外科藤田医科大学 脳神経外科ICG、第一三共株式会社)を使用した、脳腫瘍手術における術中蛍光造影の方法が報告された1)。不明瞭な腫瘍の診断と摘出を補助する方法の1つに「術中蛍光診断(photodynamic diagnosis、PDD)」がある。腫瘍細胞に取り込まれた試薬を術中の近赤外線照射により励起して、蛍光発光する腫瘍組織を摘出する方法である。悪性神経膠腫に対しては5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid、5-ALA)が用いられるが、費用、管理、必要機器などの実用的問題がある。 脳神経外科領域では、脳血管手術中の血流観察方法としてICGを用いた術中蛍光診断が日常的に行われている。市中病院の脳神経外科で扱う疾患Key words:脳脊髄腫瘍、術中蛍光造影、インドシアニングリーン、Second window ICG technique、Delayed window ICG technique67インドシアニングリーン(ICG)を用いた術中脳脊髄腫瘍のリアルタイム蛍光診断の確立Intraoperative real-time near-infrared image-guided surgery to identify brain and spine tumors武藤 淳*1  峯 裕*2 廣瀬 雄一*3

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