臨床薬理の進歩 No.44
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図1 転移性脳腫瘍のSBRとT1BRの線形回帰分析 (p=0.0020) Wilcoxon Mann-Whitney test術前T1Gd強調MRIでの最大腫瘍径も統計学的有意差を認めた(p=0.030)。近赤外線光では切除後の残存腫瘍からの蛍光発光は確認されなかった。さらに、術後MRIでも残存増強病変は検出されなかった。 術前MRIのGd増強が蛍光発光の強度を予測することができるという報告があることから、術前のMRI所見と近赤外線蛍光の関係を検討した。MRIのT1-Gd造影部位と正常白質の比(T1BR)の平均は2.4±1.8であった。T1BRとSBRの関係を線形回帰分析にて評価したところ、腫瘍の蛍光発光とMRIのGd造影の輝度は比例関係を認めた(図1、p=0.0020)。 続いて、KINEVOとVisionSenseの違い、すなわち観察機器による違いを確認した。腫瘍の近赤外蛍光は全例で脳表面から観察することができた。脳表面からの平均SBRはKINEVOでは1.58(95%CI:1.2-2.0)の一方、VisionSenseでは2.4(95%CI:0.1-5.0)であった。一方、腫瘍自体の蛍光(SBR)は、KINEVOは3.50(95%CI:0.43-6.57)、VisionSenseでは3.23(95%CI:0.98-5.48)であった。脳表面からカメラまでの平均距離は、KINEVO(290 mm(95% CI: 188-392))とVisionSense(320 mm(95% CI: 158-481))で有意差はなかった(p=0.37)。さらに、脳表面からのSBR(p=0.62)と腫瘍自体からのSBR(p=0.90)の差は僅少であった。また、KINEVOとVisionSenseの脳表面からカメラシステムまでの距離も有意な差を示さなかった(p=0.39)。治療後、血液検査、身体検査、神経学的検査では、5 mg/kg ICG投与後3ヶ月間、副作用は認められなかった。また、ICG投与から手術までの平均時間は21.1±1.7時間であった。 代表症例を図2に示す。術前の造影MRIでは左後頭葉に嚢胞性腫瘍を認めた(図2A)。続いて術中の写真である。硬膜を翻転するとMRI所見と同様に、腫瘍は脳表には露出しておらず、正常の脳表が観察できた(図2C)。近赤外線を照射して観察すると、脳表から7 mmより以深に存在する腫瘍からの蛍光発光を確認できた(図2D)。腫瘍摘出中、嚢胞は開放され、腫瘍局在は明視野ではわかりにくかった(図2E)。しかし、近赤外線を照射すると腫瘍からの蛍光発光が確認できた(図2F)。腫瘍摘出後、肉眼的には全摘出できた(図2G)。近赤外線を照射すると、一部蛍光発光を示す残存病変を疑う所見が見られたが、脳室が解放され、播種の危険があるために、摘出せずにこのまま終了した(図2H)。開頭腫瘍摘出後、造影MRIにおいて、70

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