臨床薬理の進歩 No.44
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 次に術中蛍光診断に用いられる他の薬剤との比較について述べる。現在、脳腫瘍の術中蛍光診断で頻用される薬剤は5-ALAである。5-ALAは、ヘム生合成経路における細胞内代謝蛍光物質である。また、5-ALAによる蛍光は、腫瘍の血管性、血液脳関門(BBB)の透過性、腫瘍細胞の増殖活性、細胞密度に影響される11)。5-ALAの感度および特異度は研究間で一貫していないが、5-ALAは感度92〜98%、特異度95%で頭蓋内髄膜腫の可視化に役立つ。蛍光強度とWHO悪性度または組織学的サブタイプの間に相関はなく、蛍光はしばしば異種性である。欠点は光毒性と高いコストである。投与後3日間、光を避けて生活しなければいけない。また、同じ腫瘍の異なる部位で5-ALAの蛍光が異なる蛍光パターンを示すことがある。さらに、硬膜イメージングでは、組織学的に髄膜腫の浸潤が確認された患者の20%が硬膜断端に蛍光を示した12)。ほとんどの既報は、頭蓋内髄膜腫の蛍光状態を評価する症例またはケースシリーズの報告である。したがって、5-ALAの使用は、特に腫瘍の再発例においては、依然として実験的であり、髄膜腫手術における5-ALAの役割について結論を出すことは困難であると思われる13)。 フルオレセインナトリウムは、頭蓋内血管造影の識別とモニタリングによく使用されてきた。フルオレセインナトリウムは、BBBの障害により腫瘍に浸透することができ、正常脳には拡散しない傾向がある。その長所は比色分析であり、短所は急速な光退色と非特異的な高いバックグラウンドである。フルオレセインナトリウムは、高用量(20 mg/kg体重)では通常肉眼で確認でき、低用量では黄色の560 nmフィルターを通して観察でき、より自然な色で組織の識別が可能である。フルオレセインナトリウムは、ICGと同様に腫瘍内に急速に蓄積するが、蛍光は数時間持続するため、髄膜腫の可視化に役立つ。フルオレセインナトリウムは、膠芽腫や転移性脳腫瘍の蛍光造影脳外科手術に用いられている報告があるが14)、頭蓋内髄膜腫手術における有用性はまだ議論のあるところである。 我々は、病変組織におけるICGの滞留は、EPR効果によって引き起こされ、その結果、リンパ排泄が乱れ、腫瘍細胞からの血管透過性(permeability)を増加する物質が分泌され、血管透過性が増加すると仮定した15)。DCE perfusion MRIは、BBBの透過性、間質細胞外液と細胞内液のマトリックス間の液および分子交換を評価するために使用できる4)。DCE perfusion MRIにおけるKtrans、Kep、Ve、Vp、脳血液量について解析した。健常脳におけるKtransの値は、脳腫瘍、脳卒中、感染症患者に比べ通常10〜100倍低いことがわかっている。SBRとT1BRとの解析ではKtransのみ有意差を示したが、Kep、Ve、Vpは有意差を認めなかった。したがって、BBB透過性がICGおよびGd保持量と相関するという結果が得られた。  転移性脳腫瘍10例の結果、様々ながん腫によらず、全例蛍光発光を示すことができた。腫瘍からの蛍光発光SBRはMRIのGdの輝度と比例関係を示した。また、腫瘍は脳表に露出していない場合にも、脳内の腫瘍自体からの蛍光発光を確認できた。深さに比例して、蛍光発光が減弱していくことも確認した。脳表から最大20 mmの所に存在する腫瘍まで確認できたという結果が得られた。蛍光発光が、正常脳を透過するということは、他の5-ALAやフルオレセインナトリウムでは見られず、手術中に、リアルタイムに変形している脳を観察するには、好都合である。透過光と腫瘍自体からの蛍光発光は輝度が異なるために、鑑別は容易である。 本研究では、既報の手術24時間前に5.0 mg/kgを静脈内投与し、腫瘍に残存するICGを近赤外線照射下で観察するSWIGを用いて、手術中にリアルタイムに転移性脳腫瘍からの蛍光発光を確認し、腫瘍自体からのSBRは3.4±1.8を示していた。またSWIGを改良したDWIGを開発し、これは観察1時間以上前に0.5 mg/kgを投与するという簡便な方法である。この方法により、髄膜腫では、正常脳に比較して3.3±2.6倍、脊髄神経鞘腫では、3.7±0.1 倍、腫瘍の蛍光発光を確認することができた。DWIGは髄膜腫に対して、感度94%、特異度76

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