臨床薬理の進歩 No.44
98/235

*1 TANAKA HIROAKI *2 MAKI SHINTARO *3 TAKAKURA SHO *4 TAMAISHI YUYA *5 TANAKA KAYO *6 IKEDA TOMOAKI はじめに要   旨 胎児は、受精、着床から出生するまでに、胎内で様々な問題に直面しながら成長していくことが知られているが、多くの胎児はこれらの問題を乗り越えて出生し、その後成長していく。一方で、一部の胎児はこれらの問題を乗り越えることができず、胎児を救命するため医学的な介入が必要となる。これらの中で、我々が注目した問題は、胎盤形成不全による胎児発育不全(fetal growth restriction、FGR)と分娩中の胎児低酸素性虚血性脳症である。目的 本研究は2つの臨床試験を実施し、1つ目は胎盤形成不全による胎児発育不全(fetal growth restriction, FGR)に対してのタダラフィルの有効性を評価することを目的とし(TADAFERⅡb試験)、もう1つは、分娩中のタダラフィルの投与の安全性の検証を目的とした(TADAFLⅠ試験)。方法 研究デザインは、TADAFERⅡb試験は、3群(プラセボ、20 mg、40 mg)に割り付けした盲検ランダム化比較試験とした。また、TADAFLⅠ試験は3例コホートによる臨床試験とした。結果 TADAFERⅡb試験は、2022年10月現在、目標症例180例中121例が登録され、現在も試験を継続中である。TADAFERⅠ試験は目標症例が登録され、分娩中のタダラフィル投与に対する母体・胎児・新生児への安全性が確認された。結論 今後、TADAFERⅡb試験を継続する。また、TADAFLⅠ試験において分娩中の安全性が確認されたため、分娩中の胎児低酸素性虚血性脳症を予防するための臨床第Ⅱ相試験(TADAFLⅡ試験)を新たに計画する。三重大学大学院医学系研究科・医学部 産科婦人科学         同   上         同   上         同   上         同   上         同   上このいずれにおいても胎児-胎盤機能が大きく関わっている。胎盤形成不全によるFGR 胎盤形成不全は、胎盤床脱落膜で子宮らせん動脈の血管壁がトロホブラストに置換されず、粥状硬化により母体から胎盤への血流量が減少するため、胎児への酸素と栄養の供給が制限されFGRを生じる1)。FGRは、早産や周産期死亡を増加させるだけではなく、出生後には低身長と神経発達症(注意欠陥多動、知的遅滞、自閉症スペクトラム、Key words:PDE5阻害薬、タダラフィル、胎児発育不全、胎児低酸素性虚血性脳症、分娩84田中 博明*1  真木 晋太郎*2 高倉 翔*3 玉石 雄也*4 田中 佳世*5 池田 智明*6胎児-胎盤機能改善を目的としたタダラフィルを用いた新規治療法の開発Development of a novel therapeutic approach using tadalafil to improvefetal-placental function

元のページ  ../index.html#98

このブックを見る