臨床薬理の進歩 No.44
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方  法学習障害)のハイリスク児となり、成人期には生活習慣病(高血圧、肥満、耐糖能異常など)とも強く関連する2)。しかし、FGRに対して有効性が確立された治療法はなく、現行医療では循環不全や脳発育停滞が顕在化する前に胎児を出生させて、胎外(新生児)での集中治療に切り替えている3)。分娩中の胎児低酸素性虚血性脳症 経腟分娩とは、胎児およびその付属物(臍帯と胎盤)が産道を経て母体外へ娩出される一連の現象である。経腟分娩を成功させるための要素は、娩出力、産道、娩出物の3つで構成されている。その1つの要素である娩出力は、陣痛を指す。子宮が収縮することによって、胎盤における絨毛間腔の血流が減少するため母体血酸素分圧が低下し、絨毛における胎児への酸素移行が減少する。そのため、陣痛は胎児にとって低酸素ストレスである4)。多くの胎児は、繰り返す陣痛による低酸素ストレスを乗り越えて、経腟分娩によって出生する。しかし、予備能が低下している胎児は、分娩の途中で健康度が悪化し、緊急で帝王切開分娩に切り替えることがしばしばある。また、これらの繰り返す陣痛による低酸素ストレスにより胎児がアシドーシスに傾くと、新生児脳症を起こす。様々な方法によって、胎児予備能を事前に予測する方法があるが、いずれの方法も健康度が良好であることの陽性的中率は高いが、悪化していることの陽性的中率が低く、現在の課題である。また、胎児の予備能を改善させる治療法もない4)。研究目的 これらの2つの問題に対して、我々はホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)の1つであり、内性器・外性器の血管に対して強力な血管拡張作用を有するタダラフィルを用いた新規治療薬の開発を進めている。タダラフィルは子宮らせん動脈や胎盤内の血管を標的として、血管を拡張させることで、胎児への酸素と栄養の供給を改善させることが期待されている。 これまでに、胎盤形成不全によるFGRに対してはタダラフィルの有効性と安全性について、FGRモデル妊娠マウスを用いた動物実験で検証し、臨床第Ⅱa相試験で確認している5〜14)。しかし、臨床第Ⅱa相試験は、非盲検試験であったため、エビデンスの質が低いことが問題であった。そこで、盲検化とプラセボ薬の作成のために研究組織を再整備し、盲検ランダム化比較試験としての臨床Ⅱb相試験(TADAFERⅡb試験)の準備を整えた15)。 また、分娩中の繰り返す陣痛による低酸素ストレスから胎児を保護し、胎児低酸素性虚血性脳症を予防するための試験を新たに開始することとした。まずは、分娩中にタダラフィルを投与することに対しての安全性を検証するために、臨床第Ⅰ相試験(TADAFLⅠ試験)を計画した。TADAFERⅡb試験(FGRに対する臨床試験) 本試験は、2019年7月に三重大学医学部附属病院認定臨床研究審査委員会から承認を得ている(承認番号:S2018-007)。 20歳以上、超音波検査による推定体重が-1.5SD以下のFGRを有する患者を対象とした。妊娠20週以降32週未満で登録し、ランダムに割り付けた後にプロトコール治療を開始し、妊娠終了まで内服を継続した。プロトコール治療として以下の3群に割り付け、目標症例数は各群:60例に設定した(図1)。 プラセボ群(A群):胎児のwell-beingを胎児超音波検査、超音波ドプラ検査、胎児心拍数モニタリング検査で評価し、分娩時期を決定する。プラセボ薬を内服する タダラフィル20 mg群(B群):プラセボ群と同様の胎児管理を行う。タダラフィルは20 mg/日内服を行う。タダラフィルは症例登録後から分娩まで連日経口投与とする。 タダラフィル40 mg群(C群):プラセボ群と同様の胎児管理を行う。タダラフィルは40 mg/日内服を行う。タダラフィルは症例登録後から分娩まで85

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