OA 軟骨から遊離した活性型 TGF-βの病的意義について 上述のように本研究では OA 軟骨のとくに変性部から生理的に意義のあるレベルで活性型の TGF-β1 が遊離することを見出した。また一次培養滑膜細胞を用いた実験では、軟骨から遊離した TGF-β1の活性によって実際に滑膜細胞において uPA の発現が亢進することを確認した。しかし今回の実験では軟骨から遊離した活性型の TGF-β1 によってuPA に加えてその活性を抑制する PAI-1 の発現も誘導することが示された。uPA の活性は PAI-1 による抑制を受けるほか、ウロキナーゼ受容体(uPAR)の存在によっても影響を受ける。したがって今回得られた知見だけでは OA 軟骨から遊離した TGF-β1 によって滑膜組織において uPA の活性が上昇して実際にプラスミン活性が誘導されるのかは不明であり、その点を明らかにするために今後さらに検討が必要と考えられた。 一方、OA の病態において TGF-β1 は滑膜における uPA の発現以外の変化にも関与している可能性がある。OA の動物モデルを用いた検討では、TGF-β1 の活性によって骨棘の形成が誘導されることが報告されており 11)、OA における骨棘形成に軟骨組織から遊離した活性型の TGF-β1 が関与している可能性も考えられた。一方、TGF-β1 については軟骨細胞に対して基質の産生を亢進させることで OA の進行を抑制する作用があることも知られており 11)、この知見と今回著者らが見出した知見がどのような関係にあるのかが問題となる。両者の関係の解明は今後の課題であるが、今までの研究によって OA 軟骨では軟骨細胞の基質産生が高度に亢進していることが明らかになっている 12)。このことから、活性化された TGF- β1 によって軟骨細胞の基質産生が亢進している一方、それを上回る軟骨基質の消失が起こることで OA が進行するのではないかと著者は考えている。90するのか、それにはそれぞれのアイソフォームがどの程度の比率で含まれているのかも不明であった。このため著者はついで軟骨組織から荷重によって遊離した TGF-β1、β2、β3 の量を調べた。この解析の結果、OA 軟骨の肉眼的な変性部、非変性部ともに軟骨組織の湿重量 1 g あたり平均でおよそ4 ng の TGF-β1 が遊離するが、TGF-β2、β3 については遊離量が極めて少ないこと、またこの遊離量やアイソフォーム間の遊離の傾向は軟骨の肉眼的な変性部、非変性部の間でほとんど違いがないことが明らかになった。 以上の結果から、OA 軟骨から遊離した活性型の TGF-βはほぼすべてが TGF-β1 で、TGF-β2、β3 は OA 関節において軟骨組織からはほとんど遊離しないと考えられた。また遊離量の比較から、OA 軟骨変性部から遊離する TGF-β1 はその大部分が活性型であると考えられた。 OA 軟骨の変性部から遊離した TGF-β1 の大部分が活性型であったのはどのような理由によるのだろうか。OA の場合、軟骨基質の変性は軟骨全体に一様に生じるわけではなく、荷重部にほぼ限局して生じる。これは軟骨変性部において種々のタンパク分解酵素が軟骨基質の変性を引き起こすことによると考えられており、現在のところこのような軟骨の変性には matrix metalloproteinase(MMP)-13や a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs(ADAMTS)-4、5 といった2 価の金属イオンを必要とする metalloproteinaseが複数関与すると考えられている 9)。一方、著者らの研究室では独自の解析の結果から、軟骨変性部ではプラスミン活性が亢進しており、これによって軟骨の変性が生じている可能性を見出している。プラスミンは潜在型の TGF-β1 を活性型に変える作用もあることが知られている 10)。今回著者らが得た、OA 軟骨変性部から遊離した TGF-β1 の大部分が活性型であるという知見は、軟骨変性部においてプラスミン活性が亢進しているという研究室の研究結果に合致した結果と考えられた。
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