臨床薬理の進歩 No.45
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するのか、それにはそれぞれのアイソフォームがどの程度の比率で含まれているのかも不明であった。このため著者はついで軟骨組織から荷重によって遊離したTGF-β1、β2、β3の量を調べた。この解析の結果、OA軟骨の肉眼的な変性部、非変性部ともに軟骨組織の湿重量1 gあたり平均でおよそ4 ngのTGF-β1が遊離するが、TGF-β2、β3については遊離量が極めて少ないこと、またこの遊離量やアイソフォーム間の遊離の傾向は軟骨の肉眼的な変性部、非変性部の間でほとんど違いがないことが明らかになった。 以上の結果から、OA軟骨から遊離した活性型のTGF-βはほぼすべてがTGF-β1で、TGF-β2、β3はOA関節において軟骨組織からはほとんど遊離しないと考えられた。また遊離量の比較から、OA軟骨変性部から遊離するTGF-β1はその大部分が活性型であると考えられた。 OA軟骨の変性部から遊離したTGF-β1の大部分が活性型であったのはどのような理由によるのだろうか。OAの場合、軟骨基質の変性は軟骨全体に一様に生じるわけではなく、荷重部にほぼ限局して生じる。これは軟骨変性部において種々のタンパク分解酵素が軟骨基質の変性を引き起こすことによると考えられており、現在のところこのような軟骨の変性にはmatrix metalloproteinase(MMP)-13やa disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs(ADAMTS)-4、5といった2価の金属イオンを必要とするmetalloproteinaseが複数関与すると考えられている9)。一方、著者らの研究室では独自の解析の結果から、軟骨変性部ではプラスミン活性が亢進しており、これによって軟骨の変性が生じている可能性を見出している。プラスミンは潜在型のTGF-β1を活性型に変える作用もあることが知られている10)。今回著者らが得た、OA軟骨変性部から遊離したTGF-β1の大部分が活性型であるという知見は、軟骨変性部においてプラスミン活性が亢進しているという研究室の研究結果に合致した結果と考えられた。OA軟骨から遊離した活性型TGF-βの病的意義について 上述のように本研究ではOA軟骨のとくに変性部から生理的に意義のあるレベルで活性型のTGF-β1が遊離することを見出した。また一次培養滑膜細胞を用いた実験では、軟骨から遊離したTGF-β1の活性によって実際に滑膜細胞においてuPAの発現が亢進することを確認した。しかし今回の実験では軟骨から遊離した活性型のTGF-β1によってuPAに加えてその活性を抑制するPAI-1の発現も誘導することが示された。uPAの活性はPAI-1による抑制を受けるほか、ウロキナーゼ受容体(uPAR)の存在によっても影響を受ける。したがって今回得られた知見だけではOA軟骨から遊離したTGF-β1によって滑膜組織においてuPAの活性が上昇して実際にプラスミン活性が誘導されるのかは不明であり、その点を明らかにするために今後さらに検討が必要と考えられた。 一方、OAの病態においてTGF-β1は滑膜におけるuPAの発現以外の変化にも関与している可能性がある。OAの動物モデルを用いた検討では、TGF-β1の活性によって骨棘の形成が誘導されることが報告されており11)、OAにおける骨棘形成に軟骨組織から遊離した活性型のTGF-β1が関与している可能性も考えられた。一方、TGF-β1については軟骨細胞に対して基質の産生を亢進させることでOAの進行を抑制する作用があることも知られており11)、この知見と今回著者らが見出した知見がどのような関係にあるのかが問題となる。両者の関係の解明は今後の課題であるが、今までの研究によってOA軟骨では軟骨細胞の基質産生が高度に亢進していることが明らかになっている12)。このことから、活性化されたTGF-β1によって軟骨細胞の基質産生が亢進している一方、それを上回る軟骨基質の消失が起こることでOAが進行するのではないかと著者は考えている。90

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