臨床薬理の進歩 No.45
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利益相反(COI)追  記謝  辞今後の課題 本研究ではOA関節において関節液中のuPAの濃度が上昇する機序の解明に加え、当初は臨床研究を行って、滑膜性の疼痛が認められる膝OAの症例の関節内にトラネキサム酸を投与することによって疼痛の軽減と軟骨変性の抑止効果が得られるかの検討を予定した。しかし実際に臨床研究としてトラネキサム酸を膝OA例の関節内に投与するには、関節内に投与されたトラネキサム酸がおそらくかなりの速度で関節内から排出されることが問題となる。そのため関節液中に有効な濃度を保つためには少なくとも隔日に1回程度の投与を必要とすること、一方、実際に軟骨変性の抑制効果を検証するには少なくとも数週間にわたって関節内にトラネキサム酸が有効な濃度で維持されなくてはならないことから、実施を見送らざるを得なかった。加えてトラネキサム酸投与を臨床研究として行うためには国立病院機構本部において有料の倫理審査を受ける必要があるうえに臨床研究用の医療保険への加入も必要であり、高額の費用が必要となることも実施を見送った理由である。すでに述べたように著者らは先に滑膜病変の強い時期のOA関節ではuPAのほかにPAPの濃度も上昇するが、PAI-1、tPAの濃度には有意の変化が見られないことを見出している。本研究ではOA軟骨から遊離したTGF-β1の作用で滑膜細胞においてuPAのほかPAI-1の発現亢進も観察されており、培養細胞を使った実験と関節液の解析結果の間に若干の齟齬はあるものの、著者は滑膜病変が強い症例では滑膜においてuPAの発現が亢進する結果プラスミンが産生されている可能性は高いと考えている。今後トラネキサム酸の徐放化の方法について検討したうえで、ぜひとも膝OAに対する臨床研究を試みたい。 以上、本研究ではOA軟骨の特に軟骨変性部から生理的に有意な量の活性型のTGF-β1が遊離し、これが滑膜に作用してuPAの発現を亢進させる可能性を見出した。本研究の結果はすべて臨床検体の解析に基づくものであり、実験系も極力実際のOA関節に近い条件のもとに行われているため、本研究で得られた知見はOAの病態を理解するうえで直接あてはまる可能性がある。本論文の著者は本研究の知見が、未だ確立されていないOAの進行抑止法や滑膜性疼痛に対する効果的な治療法の確立に今後何らかの形で役立つことを心より願うものである。 本研究は、Sci Rep誌に発表しました3)。 本研究は公益財団法人臨床薬理研究振興財団からの研究奨励金を得て行われたもので、ここに同財団に対して心からの謝意を申し述べます。また本研究に検体を提供していただいた患者様、ならびにご家族の方に厚くお礼を申し上げます。 本研究に関して開示すべき利益相反はない。91

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