臨床薬理の進歩 No.45
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対象と方法毒性軽減の点から明らかにする必要がある。こうした課題に対して、癌ゲノム情報や免疫細胞の状態を含む癌微小環境などの研究が進められているが、まだ確立されていない。今後、癌ゲノム医療が浸透していく中で、ゲノム情報に基づく癌患者の層別化が進んでいくことが予想される。PD-L1 TPSは癌細胞と周囲のリンパ球との相互作用を反映する癌微小環境を反映するマーカーであるが、癌ゲノム情報は新たなバイオマーカーとなる期待される。 これまでの報告では、単一の遺伝子変異としてKRAS変異が治療奏効因子であり、STK11(LKB1)、KEAP1変異が治療抵抗性因子であるという報告があった一方で、KRAS変異は治療効果と関係しないという続報も出されている3)。また遺伝子変異の総数を反映するとされるTumor mutation burden(TMB)と治療効果の相関についても、その測定法が統一されていないため一定の見解はいまだ得られていない4)。日本人におけるPD-1阻害剤の効果に対する癌ゲノム情報の解析についての報告は見られないため、本研究は重要なものであると考える。対象症例 実地臨床でPD-1阻害剤が導入された2017年3月~2019年12月までで大阪国際がんセンターにて一次治療としてPD-1阻害剤(Pembrolizumab)が導入された症例のうち、本研究の同意取得が得られた症例を対象とした。対象症例の性別、年齢、喫煙歴(Current/ Former/ Never)、Pembrolizumab投与時のPerformance Status(ECOG)(PS)、組織型、病期(TNM臨床病期分類(UICC-8版))、PD-L1 TPS(%)を後ろ向きに集積した。 本研究計画は2020年6月に大阪国際がんセンター倫理員会にて承認を受けている(承認番号『20085』)。保存検体を用いた遺伝子解析 治療前の保存組織を用いてがん遺伝子パネル(TruSight Oncology500;TSO500、イルミナ社)にて解析を行った5)。TSO500での解析データについて同遺伝子パネルでの解析ソフトを用いて変異のheat mapの作成、TMBの算出を行った。Oncogenic mutation count(OMC) TSO500パネルで検出された変異について、variant allele frequenct 5%以上の変異についてOncoKBにてアノテーションを行い、oncogenicもしくはlikely oncogenicと評価された変異の数をOMCとして症例毎に算出した。PD-1阻害剤の効果検討 PD-1阻害剤(Pembrolizumab)の投与された年月から、画像上で腫瘍進行が認められるもしくは腫瘍の進行により投与が不可能になったと判断された年月までを無増悪生存期間(Progression free survival:PFS)として算出し、PD-1阻害剤の効果の指標とした。同薬剤の副作用などで投与が不可能になった症例については、無効と判断せずに、腫瘍の進行が認められるまでをPFSとして評価することとした。TSO500で検出された変異とPD-1阻害剤との相関について PD-1阻害剤の効果(PFS)とTSO500で検出された変異との相関について、同遺伝子パネル付属の解析ソフトを用いて、無作為的に有意な相関を示す変異の検索を行った。同ソフトでは変異とcopy number alteration(増幅もしくは欠失)も複合的に検索できるアルゴリズムとなっている。統計解析 EZR 6)を用いてPFSの算出、Kaplan-Meier曲線の作成、PD-L1 TPSとOMCとの相関解析、PFSとの各変数の単変量解析、多変量解析、COX比例回帰モデル解析を行った。94

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