臨床薬理の進歩 No.45
113/222

結  語謝  辞利益相反FoundationOneなどの比較的大きな遺伝子パネルを治療前に実施することは保険診療上、不可能である。そのため、OMCを実地臨床で活用することには制度上でのハードルが存在するが、PD-1阻害剤をはじめとする免疫療法の新たなバイオマーカーとして期待される。本研究で用いたPembrolizumabを用いた悪性黒色腫での研究では、TMBと腫瘍内浸潤リンパ球(tumor infiltrative lymphocytes:TIL)が同薬剤の治療効果予測のマーカーになるという報告がある9)。本研究で検討したOMCとTILはそれぞれTMB、TILのサロゲートマーカーといえるかもしれない。 本研究で用いたTSO500は2019年に米国食品医薬品局(FDA)からブレイクスルーデバイスの指定を受けた遺伝子パネルで、523個の遺伝子の全エクソンシーケンスが可能である5)。ライブラリー調製時に、低頻度バリアントの識別を可能にする分子バーコード法を活用することで、バリアントアリル頻度の低い変異バリアントも検出できるだけでなく、エラーの発生も抑制されるので、高い解析特異度が得られることが特色である。こうした特色を反映してTSO500は現在、臨床導入されているがん遺伝子パネルであるFoundationOne(ロシュ社)パネルよりもより正確にTMBを反映できるという報告もなされている10)。また本研究で使用するのはホルマリンによる固定を行ったパラフィン包埋固定検体(FFPE)であるが、FFPEから抽出されたDNAには脱アミノ反応、酸化修飾などのアーティファクトが加わることが知られている。TSO500ではイルミナ社で開発された分子バーコード法と解析プログラム(TSO500付属解析ソフト)によりこれらのアーティファクトを除去することで、FFPE検体から抽出された低品質DNAでも正確なシーケンス結果を得られる。TSO500やFoundationOneなどのサイズの比較的大きな遺伝子パネルでの解析では腫瘍含有率の評価が重要であり、凍結検体よりもFFPE検体を用いて、腫瘍含有率を厳密に評価する必要があると思われる。その点でも、本研究で用いたTSO500パネルではエラー除去において高い性能を有しており、OMCの評価において役立った可能性が考えられる。 本研究における制限としては、第一に単一のコホートの研究であることが挙げられる。当院でのデータであることから、その効果については比較的精度の高いデータを得ることが可能であったが、本研究で検討されたOMC+PD-L1 TPSを検証するために別の独立コホートでの検討が必要である。第二にOMCの評価は今回の検討ではOncoKBを使用したが、その他のデータベースを用いたannotationでも同様の結果が得られるのか検証が必要である。第三に本研究でのシーケンスは自施設で行ったものであり、その精度評価については外部組織の検証を受けていない。今後、外部の大規模データベースを用いた独立の評価が求められる。 OMCとPD-L1 TPSを合わせた複合マーカーにより、高い精度でのPD-1阻害剤の効果予測が可能になる。 本研究を遂行するにあたり、研究助成をいただきました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に深謝申し上げます。 本研究に関して、開示すべき利益相反はありません。99

元のページ  ../index.html#113

このブックを見る