臨床薬理の進歩 No.45
115/222

*1 HIKINO KEIKO *2 ITO SHUICHI *3 TERAO CHIKASHI *4 MUSHIRODA TAISEI 曳野 圭子*1  伊藤 秀一*2 寺尾 知可史*3 莚田 泰誠*4はじめに要   旨目的 小児期発症特発性ネフローゼ症候群の患者に投与されたリツキシマブによる重症低ガンマグロブリン血症および無顆粒球症の関連遺伝子を探索する。方法 全国から対象患者の臨床情報・血液検体を収集し、全ゲノムジェノタイピング、ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study; GWAS)を行った。共変量として主成分分析の第1〜3主成分を組み入れた。結果 低ガンマグロブリン血症患者34名、成人500名を対象とした。第6染色体上のHLA遺伝子上にゲノムワイド有意な関連を認めた(オッズ比6.5、95%信頼区間3.4-12.7、p値 3.1×10-8)。結論 本研究で同定したHLA領域と小児ネフローゼ症候群との関連性には既報がなく、有害反応が独自の自己免疫反応を契機として引き起こされている可能性が示された。今後、詳細なメカニズムの解明と予後予測アルゴリズムの開発に繋げる必要がある。理化学研究所生命医科学研究センター ファーマコゲノミクス研究チーム横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学理化学研究所生命医科学研究センター ゲノム解析応用研究チーム理化学研究所生命医科学研究センター ファーマコゲノミクス研究チーム投与後に重症低ガンマグロブリン血症、無顆粒球症を発症し、感染症の反復や感染症の重症化を合併し、ガンマグロブリン製剤の定期投与や抗菌薬の予防的投与を余儀なくされる患者が存在することが明らかとなった。リツキシマブによる重症の低ガンマグロブリン血症の発症率は、伊藤らの検討では15.4%であり、リスク因子として投与回数、プリンアナログの使用、投与時年齢、治療前のIgG値、女性であることなどが報告された3)。リツキシマブによる無顆粒球症に関しては、2〜15%の発症率であり、リスク因子として有病期間や年齢、複数回投与などが報告された4,5)。 しかしながら、リツキシマブは代謝・消失経路にKey words:リツキシマブ、有害反応、低ガンマグロブリン血症、ネフローゼ症候群、ゲノムワイド関連解析Exploration of genes associated with severe hypogammaglobulinemia and agranulocytosis induced by rituximab and construction of a predictive model 小児期発症特発性ネフローゼ症候群は小児糸球体疾患の中で最も多い疾患であるが、頻回再発型ネフローゼ症候群となる患者が30〜40%、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群となる患者が11.6%に達する。この様な小児期発症難治性ネフローゼ症候群に対し、本研究の共著者の一人である伊藤らにより、抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブが有効であることが発表され1)、世界に先駆けて本邦で適応拡大の承認を得た。 リツキシマブは、小児期発症難治性ネフローゼ症候群の予後を著明に改善させたが2)、一方、本剤の101リツキシマブによる重症低ガンマグロブリン血症・無顆粒球症に関連する遺伝子の探索と予測モデルの構築

元のページ  ../index.html#115

このブックを見る