臨床薬理の進歩 No.45
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方  法様癌(Mesonephric-like adenocarcinoma、MLA)が分類された1)。MAとMLAに関する大規模な疫学データは未だ存在しないが、Pors Jらによる多施設共同研究によると、MAとMLAは他の組織型に比べて多くが進行期で診断され、治療後においても肺転移再発率が高いことが報告された2)。稀な疾患であるため、MAおよびMLAの細胞株やin vitro/in vivo研究モデルは存在せず、症例数の問題から臨床試験の実施は困難であり、標準治療は確立されていない。 これまでがんの発生・生物学的機序の解明や治療法の開発には、様々な腫瘍モデルが用いられてきた。がん細胞株は、一般的には安価で培養・増幅も容易であるため幅広く研究に使用されているが、細胞株の樹立後から長期間の培養と多数の継代回数を経ていることが多いため、ゲノム配列や遺伝子発現に変化が生じ、元のがん組織の特徴を維持していない可能性があることが指摘されている3)。そのためか、実際に細胞株を用いた前臨床研究で薬効を認めた抗がん剤のうち、米国Food and Drug Administration(FDA)で承認された薬剤はたったの5%程度と報告されている。一方で、Patient-Derived Xenograft(PDX)はヒト由来腫瘍を免疫不全マウス等の実験動物に異種移植し、動物の体内でヒト腫瘍を増殖・増幅させることで様々な研究に用いられる実験モデルである。PDXマウスモデルは、ヒト腫瘍の不均一性と3次元構造を維持し、組織型・ゲノム異常・タンパク発現などを正確に保つことが数多く報告されている。PDXマウスモデルを用いることで、近年婦人科腫瘍の領域でも病態の解明や治療薬開発が促進されてきた4,5)。ヒト腫瘍の構造・性質を忠実に再現するPDXマウスモデルにおける抗腫瘍効果は、従来の細胞株を用いた動物実験と比べて、ヒトへの臨床効果と強く相関するとされている。そのため、最近では基礎研究成果をヒト臨床試験へ応用するにあたっては、PDX を用いた研究結果が強く求められている。 そこで本研究では、標準治療が確立されていない予後不良な婦人科「希少がん」であるMLAのヒト腫瘍組織を免疫不全マウスに同所移植してPDXマウスモデルを樹立し、これを用いた早期の臨床応用を見据えた個別化医療の開発研究を行った。倫理と動物実験 本研究は大阪大学ヒトゲノム研究倫理審査委員会にて承認された(承認番号873-2)。MLA患者に対してゲノム解析を含む本研究内容の説明を行い、書面にてインフォームド・コンセントを取得した。マウスを用いた動物実験は大阪大学動物実験施設管理使用委員会にて承認された(承認番号02-014-006)。マウス実験は「動物の愛護及び管理に関する法律」に基づき、動物愛護および環境保全を念頭に、大阪大学における規則に沿って行った。患者腫瘍採取とPDXモデル PDX腫瘍は大阪大学医学部附属病院で腹式子宮全摘術および両側付属器摘出術を受けた63歳女性のMLA腫瘍(子宮傍組織由来)から樹立した。手術で採取した患者腫瘍の一部を採取・細切したのち、その一部は10%中性緩衝ホルマリンで固定しパラフィン包埋したブロック(formalin-fixed、paraffin-embedded、FFPEブロック)を作製した。腫瘍の一部は-80 ℃で保存し、ゲノム解析に用いた。PDXマウスの作製は、2-3 mm3大に細切した腫瘍を、全麻下でヌードマウス(メス)の左卵巣および左子宮角遠位に縫合して行った。触診と経腹超音波で観察したPDX腫瘍が1000 mm3以上になった時点でマウスを安楽死させ、腫瘍を採取した。PDX腫瘍は新たなPDXマウスの作製、FFPEブロックの作製、以下に述べるin vitro薬剤感受性実験に用いた。マウスは毎日健康状態を評価し、週1回以上体重測定した。ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色および免疫組織化学 患者由来腫瘍またはPDX腫瘍のFFPEブロッ110

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