臨床薬理の進歩 No.45
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*1 NISHIDA SHO *2 ISHIMA TAMAKI *3 KIMURA NATSUKA *4 MINAMISONO KYOKO *5 IWAMI DAIKI *6 AIZAWA KENICHI 西田 翔*1  石間 環*2 木村 夏花*3 南園 京子*4 岩見 大基*5 相澤 健一*6はじめに要   旨背景 タクロリムスによる慢性腎障害(タクロリムス腎症)は移植腎の長期的な生着の弊害となっている。しかし、その発症機序はほとんど解明されていない。我々はタクロリムス投与による腎組織内の代謝変動に着目し、タクロリムス腎症の病態解明を試みた。方法 ICRマウスを2群に分け、タクロリムス群には1 mg/kg/day相当のタクロリムスを28日間持続皮下投与し、対照群には生理食塩水を同様の方法で投与した。投与完了後に腎組織を採取し、腎組織内代謝物のメタボローム解析を行った。結果 腎組織サンプルはタクロリムス群のみ腎組織の線維化を認め、メタボローム解析では65種類の代謝物で有意差を認めた。そのうち、カルニチン関連代謝物は18種類あり、全てタクロリムス群で有意に低値であった。結語 メタボローム解析を活用し、タクロリムスがカルシウムを低下させることにより腎症を引き起こす機序の一部を明らかにした。今後、カルニチンおよびその関連代謝物に着目し、さらなる病態解明が求められる。自治医科大学 薬理学講座 臨床薬理学部門、自治医科大学 腎泌尿器外科学講座 腎臓外科学部門自治医科大学 薬理学講座 臨床薬理学部門       同   上自治医科大学 腎泌尿器外科学講座 腎臓外科学部門          同   上自治医科大学 薬理学講座 臨床薬理学部門一方で、タクロリムスの長期内服によって様々な臓器への障害や有害反応が指摘されている3)。その有害反応の中でもCNIによる慢性腎障害は投与開始から10年で内服患者にほぼ必発とされている4)。実際、多くの固形臓器移植患者でCNI長期投与を原因とした慢性腎障害が出現し、その後末期腎不全への移行していることが指摘されている5)。したがって、この慢性腎障害は移植腎の長期生着を達成するために解決すべき重要な課題である。 タクロリムス慢性腎障害(タクロリムス腎症)とは定説ではタクロリムスの長期的な曝露によるKey words:metabolome、tacrolimus、kidney tissue、chronic kidney disease、metaboliteIdentification of carnitine-related metabolic changes in tacrolimus–induced  カルシニューリンインヒビター(CNI)の1つであるタクロリムスは臓器移植や自己免疫疾患の領域で極めて有効な免疫抑制薬として存在している。腎移植の分野では、タクロリムスの出現により急性期拒絶反応の多くは抑制され、短期的な移植腎生着率は顕著に改善している1)。したがって、今日の腎移植分野における維持免疫抑制プロトコールの約90%はタクロリムスとミコフェノール酸モフェチルを用いたプロトコールで行われている2)。chronic nephrotoxicity in mice by metabolomics125メタボローム解析によるタクロリムス腎症における組織内カルニチン代謝変化の同定

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