臨床薬理の進歩 No.45
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7週齢ICR マウス 0.01%低ナトリウム食 対照群タクロリムス群投与開始7日前ポンプ留置・投与開始ポンプ調製・インキュベーション開始投与28日後生理食塩水タクロリムス1 mg/kg/day体重測定腎採取方  法図1 マウスに対するタクロリムス投与プロトコール7週齢のICRマウスを群分けし、薬物投与7日前から低ナトリウム食(0.01%)を自由摂取させた。タクロリムス群には1 mg/kg/day相当のタクロリムスをALZETポンプ2004に充填し28日間背側皮下投与し、対照群には生理食塩水を同様の方法で投与した。投与完了後に全身麻酔下に腎組織を採取した。不可逆的かつ進行性の移植腎機能低下とされている3)。タクロリムス腎症の病態は、近位尿細管にて活性酸素種(ROS:reactive oxygen species)が産生されることで抗酸化機能の低下が生じるという報告や6)、細動脈壁の障害による慢性血行動態低下や直接の尿細管障害の混在と言われている3)。タクロリムス腎症の確定診断は移植腎生検によって行われ、その特徴的な病理学的所見は、動脈の硝子様変性、間質尿細管線維化、尿細管紋様変化である7)。しかし、その詳細な病態機序はほとんど解明されていない。また、このタクロリムス腎症による腎機能低下を改善する目的で、カルシウム拮抗薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬などを投与する試みもされているが、現在までその進行を緩和するという有効な結果は得られていない3)。したがって、臨床現場ではタクロリムスの腎臓にもたらす慢性的な有害反応を黙認しながら、タクロリムスを臨床の現場で継続して使用している現状がある。 慢性腎障害に至る原疾患やその進行していく病態変化は様々であるが、近年、その原疾患やその疾患ごとに陥る慢性腎不全の病態について、ヒトサンプルや動物実験モデルを用いて代謝物に着目した病態解析が行われ、バイオマーカーや治療介入対象が同定されつつある8,9)。移植腎の慢性腎不全の原因であるタクロリムス腎症においても代謝変化を解析することでその病態が明らかなになると予想されるが、代謝物の網羅的解析を行った報告は今までにない。今回我々は、タクロリムス投与によって慢性腎障害を来したマウスを用いて、腎組織内の代謝変動に着目し、タクロリムス腎症の病態解明を試みた。タクロリムス腎症マウス作製 雄性7週齢のICRマウスに低ナトリウム食(0.01%ナトリウム、日本クレア(株))を自由摂取させた。自由摂取開始から7日後にマウスを2群に分け、タクロリムス群にはflow rateより算出し1 mg/kg/dayになるようにタクロリムス(Prograf®、Astellas)を浸透圧ポンプ(ALZET® osmotic pump 2004)に充填し、ポンプを生理食塩水中で40時間37 ℃にてインキュベーション後、背部皮下に埋め込み持続投与を行った。対照群には生理食塩水を同様の方法で浸透圧ポンプ内に充填し、皮下持続投与した。28日間持続皮下投与した後、腎採取直前にマウスの体重測定を行った。腎組織採取はイソフルラン吸入麻酔下(導入濃度4-5%、維持濃度2-3%)に行った。上記プロトコールは既報に準じて行った(図1)10)。126

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