臨床薬理の進歩 No.45
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その他の代謝物(n=36、55.4%)解糖系関連代謝物(n=2、3.1%)カルニチン関連代謝物(n=18、27.7%)ヒスタミン関連代謝物(n=4、6.1%)抗酸化関連代謝物(n=3、4.6%)考  察 タクロリムスによる腎臓への影響としては可逆的な機能障害である急性腎障害と尿細管や間質の線維化などの器質変化を認める慢性腎障害がある。タクロリムスによる移植腎廃絶は慢性腎障害が原因であるため、タクロリムス腎症を来した腎組織を対象とした病態把握および機序解明が重要となる。既報では、タクロリムスを2週間投与したマウスに対する複数臓器内における代謝物解析を行った報告はあるが、腎臓組織内で有意差を認めた代謝物の検出数は2種類のみであった11)。また先行報告では腎障害の形態変化は確認されていない。タクロリムスの投与によって慢性腎組織障害の所見とされる線維性変化と線維化マーカーおよび腎障害マーカー上昇がみられた腎組織において、その組織内の代謝変化を解析した報告は本報告が初めてである。我々の結果では、CE-FTMSを用いてタクロリムスによる腎障害を来したマウスの腎組織内の有意差を認めた代謝物を65種類同定し、その腎組織内の代謝変化の一部をとらえることができたといえる。 65種類の有意差を認めた代謝物のうち、最大割合である約3割がカルニチンおよびカルニチンに関連する代謝物であり、その後に続くヒスタミン関連代謝物や抗酸化関連代謝物の数と比較しても、図5 メタボローム解析により腎組織内において有意差を認めた代謝物の割合CE-FTMSを用いた分析では65種類の代謝物にて有意な変化を認めた。統計解析はWelchのt-検定で実施した。nは各代謝物群の代謝物の種類を示した。パーセンテージは有意差を認めた代謝物全体に対して各代謝物群の占める割合を示す。p<0.05(n=5/群)。変化した代謝物の種類が多い代謝群であったといえる。そして、これら18種類は全てタクロリムス群で有意に低値であった。カルニチンの役割は長鎖脂肪酸のミトコンドリア内へ運搬を担い、β酸化を促進し細胞や組織へのエネルギー供給を担う。またカルニチンがミトコンドリアの機能低下を抑制できることも示されており、細胞や組織の生体環境の維持にはとても重要な代謝物である12)。さらに、カルニチンの欠乏は腎組織の線維化を促進する報告もあり13)、カルニチンの欠乏は腎障害において重要な要素であることが示唆される。我々の結果ではカルニチン、アシルカルニチンが共に低値であったことから、タクロリムス群の腎組織内においてカルニチンそのものの需要と供給の不均衡が生じているという病態が示唆された。カルニチンの生体への供給経路は、①カルニチンの摂取、②生体内における生合成、③尿細管からの再吸収の3種類である。本研究では2群間で腎採取時の体重差は認められなかったことから、明らかな摂取量や栄養状態に差があったとは考えにくい。興味深いことにカルニチンの前駆体であるγ-ブチロベタインは2群間で差はみられなかった。これは前駆体であるγ-ブチロベタインからカルニチンへの代謝に関与するBBOX-1がタクロリムスの作用によって機能低下したことが推察される。また、カルニチンの尿中から細胞質内への再吸収は、尿130

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