臨床薬理の進歩 No.45
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謝  辞利益相反細管上皮に存在するOCTN2を介して行われるため、OCTN2がタクロリムスによって阻害され、カルニチンが低下したことにより尿細管障害および線維化が進行した可能性もある。 本研究の結果では、アシルカルニチンの一種であるアセチルカルニチンが低下している。脳においてアセチルカルニチンはアスパラギン酸の合成にも関与しているという報告もあり14)、アセチルカルニチンの低下はアスパラギン酸の低下に関連したことが示唆される。その結果、アスパラギン酸が合成に関与するホモアルギニン、アルギニン、オルニチン、クレアチンといった代謝物も全てタクロリムス群で有意に低値となったと推察される。 慢性腎障害症例のサンプルやマウスの慢性腎障害モデルでも代謝物の網羅的な解析を行った報告が複数存在するが、どの報告においても有意に変化した代謝物としてカルニチンの低値は指摘されていない9,15)。このことから、カルニチン低値であることはタクロリムス腎症に特化した代謝変化であると推察される。したがって、カルニチンやアシルカルニチンがタクロリムス腎症のバイオマーカーや、治療介入対象となる可能性を秘めており、タクロリムスとカルニチンの関係性に着目した詳細な病態機序解明が求められる。 本実験はマウスを用いたin vivoの実験であり、実臨床を反映した腎臓の病態であるか評価する必要がある。今後ヒトサンプルなどを用いてカルニチンやその関連する代謝物が同様に変化を来しているか検討する必要がある。また、タクロリムス腎症はタクロリムスの長期かつ持続的な曝露によって経時的に増悪するとされているが、本結果は4週間投与時点の組織変化のみの結果であり、経時的な代謝変化を追跡しているわけではない。したがって、今後はこれらの変化した代謝物に着目しタクロリムスの曝露期間の違いで生じる代謝変化を焦点に研究を進めることを検討している。 今回我々はメタボローム解析を活用し、タクロリムスが慢性腎障害を引き起こす機序の一部を明らかにした。今後本研究で得られた知見をもとにタクロリムス腎症の機序解明にむけ、研究を進めていきたい。 本研究を遂行していくにあたり、研究助成を賜りました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に心より感謝申し上げます。尚本研究について現在英語原著論文を準備中であり、本報告書に一部その詳細を記載できないことを記します。 開示すべき利益相反はありません。131

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