臨床薬理の進歩 No.45
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*1 TACHIKAWA MASANORI 徳島大学大学院医歯薬学研究部(薬学域)創薬理論化学分野*2 INAGAKI MAI 立川 正憲*1  稲垣 舞*2はじめに要   旨目的 妊婦に対する薬剤投与の判断基準は、薬物の胎児移行性であり、それを規定するのが「胎盤関門」である。そこで胎盤関門において、特に輸送体が関与する薬物透過性を「個別に」予測する方法論の開発が必要である。本研究は、仮説「胎盤が分泌し母体血中を循環するエクソソームが、胎盤関門における輸送体発現情報を反映する」に基づき、胎盤関門における薬物輸送機能のサロゲートマーカーとしての胎盤分泌エクソソームの有用性を実証することを目的とした。方法・結果 プロテオミクス解析から、ヒト胎盤関門モデル細胞(BeWo細胞)の細胞膜画分と分泌エクソソームに発現する輸送体の発現レベルには正の相関があることを見出した。さらに、マウス胎盤組織の細胞膜画分と血中循環エクソソーム画分における輸送体の発現レベルは正に相関する傾向が示された。結論 ヒト胎盤関門輸送機能を予測する方法論の確立に向けた基盤的知見が得られた。           同   上の輸送体は、薬物輸送にも寄与し、母体から胎児への薬物移行を制御している1)。一般に、胎盤の機能は個人差が大きく、薬物の「胎児移行性」は妊婦ごとに評価する必要がある。従って胎盤関門において、特に輸送体が関与する薬物輸送を「個別に」予測する方法論の開発が求められている。 私たちは、ヒト胎盤関門における薬物輸送機能を、妊婦の血液中を循環する何らかのサロゲートマーカーを用いて予測することができれば、薬物の胎児移行性を指標として、妊婦に対する薬物投与リスクを個別に評価する方法論を構築することが可能になるのではないかと考えた。妊婦の血液中を循環するサロゲートマーカーとして着目したのが、胎盤関門が分泌するエクソソーム(図1)である。体内のあらゆる細胞は、脂質二重膜を有する様々なKey words:妊婦への薬物療法、胎盤関門輸送機能予測、エクソソーム、輸送体、プロテオミクスPlatform for predicting drug transport function at the placental barrier based on carrier proteins expression profile in blood circulating placenta-derived exosomes 妊婦への薬剤投与の判断は難しく、産科医療の現場では未だ経験則に依存している現状がある。妊婦に対する薬物療法の基準は、薬物の胎児移行性であり、母体から胎児への薬物移行性を規定するのは母体と胎児とをつなぐ「胎盤」である。胎盤は、妊婦が特異的に有する組織であり、母児間の物質交換1)やホルモンの分泌2)など、子宮内での胎児発育や分娩に重要な役割を担う。その中でも「胎盤関門」は、栄養膜細胞が融合して多核化してできた合胞体性栄養膜細胞で構成され、様々な輸送体(トランスポーター、受容体やチャネル)を発現して、栄養素の胎児血側への移送や、胎児血に存在する老廃物の母体側への排泄を担っている。胎盤関門133胎盤分泌エクソソームの輸送体発現情報に基づく胎盤関門薬物輸送機能予測法の基盤構築

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