考 察外小胞において、少なくとも12分子が両方の画分に存在し、輸送体の発現レベルには正の相関を示す傾向が示された(図6B)。網羅的プロテオミクスが紐解くヒト胎盤関門における輸送体の発現と機能 ヒト胎盤関門における発現が、タンパク質レベルで報告されているトランスポーターは、GLUT1/SLC2A1、LAT1/SLC7A5、LAT2/SLC7A8、MDR1/ABCB1、BCRP/ABCG2などわずか数種類である1)。本研究では、世界的に汎用されている、ヒト胎盤関門モデル細胞株(BeWo細胞とJEG-3細胞)の細胞膜画分を用いた網羅的プロテオミクス解析から、両細胞株に共通して発現するトランスポーター分子を112種類同定した。さらに、同定した輸送体分子について、輸送基質を用いてその機能を評価した。中枢作用薬などの薬物を輸送することが報告されているLAT1/SLC7A510)、胎盤関門での機能が未知であったMfsd7c、及びMfsd2aについて、BeWo細胞での輸送機能が示された。特に、ヒト胎盤関門におけるMfsd7cの機能的役割については、本研究で初めて見出された。一方で、同定したトランスポーターには、輸送基質が未知の分子も多い。今後、トランスポーターを中心とした輸送体の機能解明を進めていくことによって、ヒト胎盤関門における輸送機能の全容解明が期待される。胎盤分泌エクソソームの胎盤関門における薬物輸送機能のサロゲートマーカーとしての有用性 薬物のヒト胎児移行性は、ラットやマウスなどのげっ歯類を用いて算出された胎盤関門透過性に関する薬物動態パラメータ11)を外挿して予測する試みがされてきた。しかし、ヒトとげっ歯類では胎盤関門の基本構造が根本的に異なり、その予測精度は著しく低い。ヒト胎盤関門の透過性を直接的に評価する手法として、出産時の母体 ― 臍帯血液中の薬物濃度比の計測や、満期ヒト胎盤を用いた薬物の灌流実験が行われている。胎盤における輸送体の発現量は、妊娠進行過程で劇的に変化することが知られており、従来の満期ヒト胎盤の透過性からの薬物胎児移行性の推定には限界が見えてきている。 私たちはこの現状を打破すべく、胎盤関門における薬物輸送機能予測のためのサロゲートマーカーとして、胎盤関門が分泌するエクソソームに着目した。本研究では、BeWo細胞の細胞膜画分及び同細胞が分泌する細胞外小胞において発現する輸送体を60分子同定することに成功し、両画分における輸送体の発現レベルに正の相関を見出した。その中には、胎盤関門において薬物の胎児移行性に寄与することが知られているLAT1/SLC7A5や薬物排出輸送体BCRP/ABCG2が含まれていた。さらに、マウス胎盤組織の細胞膜画分及び血中を循環する細胞外小胞において、少なくとも12分子が両方の画分に存在し、輸送体の発現レベルには正の相関を示す傾向が示された。しかし、マウス胎盤組織の細胞膜画分―血中循環細胞外小胞の間での相関性は、BeWo細胞の細胞膜画分 ― 細胞外小胞間における輸送体発現の相関性に比較して低いことが示された。その要因として、妊娠マウスの血中を循環するエクソソームは胎盤組織以外からも分泌されていることが考えられる。最近私たちは、妊娠マウス血漿エクソソーム特異的に発現する胎盤由来膜タンパク質を同定した。これらのタンパク質に対する抗体を用いて、胎盤分泌エクソソームを血漿中から濃縮することによって、相関性の精度を上げることができると考えている。以上の結果から、本研究の仮説を支持する結果を得ることができ、胎盤が分泌し母体血中を循環するエクソソームが、胎盤関門における輸送体発現情報を反映することが示唆された。従って、胎盤関門における薬物輸送機能のサロゲートマーカーとして、胎盤分泌エクソソームが有用であると考えられる。本研究成果の今後の展開と臨床への応用性 本研究では、作業仮説「胎盤が分泌し母体血中を139
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