臨床薬理の進歩 No.45
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*1 AKIYOSHI TAKESHI 秋好 健志*1 はじめに要   旨 薬物相互作用(drug-drug interactions; DDI)のリスクを評価するために、様々な臨床試験やin vitro試験が実施されている。しかしその多くは、標的となる薬物代謝酵素(CYPs)やトランスポーターの遺伝子型を考慮しない試験、あるいは野生型を対象とした試験である。一方で、頻度が低い遺伝的バリアント(低頻度バリアント)保有者においても、DDI リスクを正しく評価することは重要である。とはいえ、多種類の低頻度バリアントについて、網羅的に臨床試験を実施することは現実的ではないため、そのリスク評価はin vitro試験に 薬物相互作用(drug-drug interactions; DDI)のリスク評価のため実施される臨床試験の多くは、標的となる薬物 代謝酵素(CYPs)などの遺伝子型が考慮されていない。一方、頻度が低い遺伝的バリアント保有者においても、DDIリスクを正しく評価することは重要であるが、網羅的な臨床試験の実施は困難であり、その評価はin vitro試験によらざるを得ない。CYP3A4にはアミノ酸変異を伴う遺伝子多型が存在し、その代謝活性に対する影響は基質間で異なる。Mechanism-based inhibition(MBI)は、不可逆的な酵素阻害が遷延する臨床上重要なDDIである。本研究ではMBIキネティクスが用いる基質間で異なるのか、その違いは低頻度バリアントにおけるDDIにどの程度影響を及ぼすのか、in vitroおよびin silico試験により評価した。In vitro試験の結果、エリスロマイシン、クラリスロマイシンの両阻害剤は各CYP3A4 variantsのミダゾラム 1-水酸化を濃度およびpreincubation時間依存的に阻害し、そのMBIパラメータはvariants間で異なり、変動のパターンはテストステロンを基質とした場合と類似した。よって、MBI阻害剤の阻害キネティクスは遺伝子変異の影響を受けるが、その影響は結合部位が異なる基質間で類似している可能性が示された。現在、本研究から得られたMBIパラメータを用いてin silico simulationによるDDI評価を実施している。慶應義塾大学 医学部 病院薬剤学教室よらざるを得ない。一般に、DDIの強度は、静的モデル(一般的な競合阻害モデル)で示せば、AUC比*=1 +[I]/ Ki(基質薬の体内からの消失に占める機能蛋白質の寄与率を1と仮定。[I]:阻害剤濃度、Ki:阻害定数)により決定される。このうち、阻害強度を示すKi値は、従来阻害剤固有の値として認識されていたものの、近年、我々は、Ki値は機能蛋白質の遺伝的バリアントにおいて大きく異なることを明らかにした。具体例として、代表的なCYPsであるCYP2D6の特異的競合阻害剤であるテルビナフィンのKi値がCYP2D6.10変異型では野生型の35倍大きいことを明らかにした1)。しかし、このような変異型バリアントに着目してKey words:遺伝的変異、アミノ酸置換、薬物相互作用、個人差、Cytochrome P450In vitro & in silico studies to improve the accuracy of the prediction of drug-drug interactions in carriers with a low frequency genetic variant142低頻度バリアント保有者における薬物相互作用リスクの予測精度を改善するためのin vitro & in silico 研究

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