臨床薬理の進歩 No.45
157/222

臨床上のDDIリスクを評価し、メジャーバリアントと比較した報告はなく、実際にin vitro DDI試験から得られたKi値の差異が臨床上のDDIの程度に与える影響は明らかになっていない。 代表的な薬物代謝酵素であるCYP3A4には、アミノ酸変異を伴う遺伝子多型が同定されている。この遺伝子変異がもたらす代謝活性への影響は、基質間で異なることが報告されている。例えば、CYP3A4.18(Leu293Phe)では、ミダゾラムの代謝活性は低下するが2)、テストステロンの代謝活性は亢進する3)と報告されている。この原因として、基質間でCYP3A4活性中心との相互作用のプロセスが異なることがあげられる。これまでにCYP3A4の活性中心には、3つの結合部位が存在することが提唱されている4)。Galetinら4)やWangら5)は、それぞれの結合サイトは、基質ごとに、区別された、また優先的に結合するドメインが存在することを示唆している。また、複数の研究グループは、ミダゾラムの2つの代謝経路、つまり1-水酸化と4-水酸化について、それぞれ独立した基質結合部位が存在する可能性を示唆している。また、Hackettによるsimulationによると、CYP3A4の活性中心において最も重要な役割を担うとされるSer119と基質とのhydrogen bondはミダゾラムにおいて確認されるもののテストステロンでは確認されず、両基質の活性中心でヘムとの相互作用様式は異なる6)。よって、上記のCYP3A4.18における基質間での活性変動の違いも、このようなミダゾラムとテストステロンの異なる代謝プロセスによる影響の違いによって説明できるかもしれない。 エリスロマイシンは、CYP3A4に対して強力なtime-dependent inhibition(TDI)活性を有する。エリスロマイシンの時間依存的CYP3A4阻害のメカニズムは、mechanism based-inhibition(MBI)として知られており、その不活性化に寄与する代謝中間体の不可逆的な結合によりCYP3A4は、それ自身が分解を受けるまでこの相互作用は遷延する。これまでに、結晶構造解析により、エリスロマイシンはCYP3A4の複数の基質結合部位と相互作用することが示唆されている7)。しかし、その代謝中間体がCYP3A4のどの部位に結合し不活性化しているのかは不明である。これまでに我々は、エリスロマイシンによるCYP3A4のMBIは、複数の基質、すなわちミダゾラムおよびテストステロン、ニフェジピンのいずれの代謝も同等のキネティクスでimpairすることを報告している8)。しかし、CYP3A4の各種遺伝的変異型においても、MBIの不活性化キネティクスが基質によらず同等であるかは明らかではない。 アミノ酸置換を伴うCYPの遺伝的変異は、競合阻害剤、MBI阻害剤のいずれにおいても、その阻害キネティクスに影響を与える1,9)。我々は代表的基質テストステロンを用いてCYP3A4野生型と各種変異型分子(CYP3A4.2, .7, .16 and .18)に対するマクロライドのMBIキネティクスをin vitroにおいて検討し、野生型と変異型の間でエリスロマイシンの最大不活性化速度定数(kinact,max)が最大1.84倍、kinact,maxの1/2の不活性化速度をもたらす阻害剤濃度(KI)が5.40倍異なることを明らかにした9)。しかし、ミダゾラムなどのテストステロンとは結合プロセスが異なる基質においても遺伝子型がMBIキネティクスに同じように影響するかは検討の余地がある。 本研究では、CYP3A4に対する代表的なMBI阻害剤であるエリスロマイシンおよびクラリスロマイシンのMBI キネティクスに対する遺伝子変異の影響が、結合部位が異なる基質を用いて評価した場合に異なって観測されるか否かを明らかにすることを目的とした。具体的には、CYP3A4 variantsによるミダゾラム代謝に対するエリスロマイシンおよびクラリスロマイシンのMBIキネティクスを解析した。一方、我々は、これまでにミダゾラムと同様に典型的なCYP3A4基質であるテストステロンを用いて、エリスロマイシンとクラリスロマイシンの阻害活性がCYP3A4 変異型間で異なることを報告している。そこで、今回得られた結果をこの既存の結果と比較することで、CYP3A4 遺伝的変異型分子における MBIキネティクスに対する基質間の違い143

元のページ  ../index.html#157

このブックを見る